火災報知設備の誤作動について
自動火災報知設備の火災感知器類は、様々な原因で誤作動を起こします。機械類が劣化して作動する場合や、雨・台風などの自然現象による場合など、現場状況をリサーチしていくことで原因を探ることができます。
応急処置として警報音響を停止させ、誤作動の原因が特定できないまま放置されているという現場を見かけます。このような状況で火災が起こったらどうなるでしょうか。
生命と誤作動の停止措置、どちらを優先するか??取り返しがつかなくなる前に、原因を究明し素早い改修を行うことをおすすめいたします。
誤作動原因の一覧
- 経年劣化
- 台風などの気象によるもの
- ぶつけた
- 雨・水漏れなどによるもの
- エアコンの風による影響
- 受信機基盤故障・劣化
- ねずみ
- 不適工事や施工不良
自動火災報知設備の誤作動は器具類の故障や、色々な条件が重なり発生するものま様々です。主な原因となるものをは上の表のとおりです。
火災報知設備は厳しい検査基準に適合した国家検定品でなければならず、基準をクリアした製品でなければ販売や設置をしてはいけないことになっています。
市場に出ている検定品の機器類のほとんどが防災メーカーによる設計・製造(OEM含む)のため、製品自体の信頼性は高く、耐用年数以内の機器自体が原因で誤作動がおこることは考えにくいでしょう。※設置状況不適による誤作動を除く。
誤作動には必ず原因がありますので、状況を見ながら特定していくことが非常に重要になります。
タバコやバルサンの煙で誤作動を起こすのか??
タバコやバルサンなどの煙で火災報知器が作動するかについて質問をいただきます。結論から言えばケースバイケースです。
火災感知器は「火災受信機」という火災を監視する親機と連携し火災を警戒しています。感知器が熱や煙を感知し、その信号が火災受信機に送られベルやサイレンを鳴らします。
火災受信機には「蓄積機能」という感知器が受け取った火災信号を一定時間留保した後にベルやサイレンを鳴らす誤作動防止機能があります。
現行品の蓄積機能を搭載した火災受信機が設置され、ある程度給排気が機能している居室であれば感知器が作動する確率は低いかと思います。
一方、旧式の蓄積機能が搭載されていない火災受信機の場合は、火災感知器が働いたら即時発報するので、非火災発報の確率が高くなります。蓄積機能の有無は火災受信機の内蓋に記載されているので簡単に確認できます。
蓄積機能の詳細につきましては当記事の下段あたりに記載いたします。
考えられる原因について
経年劣化【煙感知器・差動式熱感知器】
火災感知器は経年劣化により誤作動を起こします。リニューアルの時期がきたら器具の交換をオススメいたします。※特に差動式の熱感知器
自動火災報知設備等:リニューアル工事の目安
感知器の種類について:感知器の種類と見分け方
熱感知器【差動式】 | リーク孔が詰まる |
熱感知器【空気管】 | リーク孔が詰まる |
煙感知器 | ほこり・ゴミ |
熱感知器【差動式スポット・空気管】
差動式スポット型経年劣化で誤作動が起こりやすい感知器は、熱感知器【差動式スポット型・空気管型】です。この2つの感知器は熱膨張を利用し、温度上昇で作動させる仕組みになっています。熱を加えると空気室内部が膨張し、温度が下がったらもとに戻るしくみです。空気管型も同じ方式の熱感知原理です。
空気室にはリーク孔という膨らんだ空気を逃がす孔が設けられていて、ここのリーク孔が長年の蓄積でふさがってしまい空気の逃げ場がなくなることで誤作動がおこります。
煙感知器
煙感知器は風通しのよい風除室や通路に設置されている機器が誤作動を起こしやすくなっています。煙感知器は煙を取り入れるための吸い込み口にホコリ、チリが入り込むことで作動する確率が高くなります。また、点検時にタバコの煙が滞留するような場所に設置している煙感知器も反応が早いように感じます。
煙感知は経年劣化で『反応がものすごく早くなる』と『反応しなくなる』2パターンがあります。
誤作動後の対応
- 受信機での復旧操作は可能であるが再度発報する可能性が高い
- 機器を交換することで発報しなくなる
台風などの気圧変化【熱感知器・差動式熱感知器】
台風や気圧の変化により火災報知設備が作動することがあります。気圧の変化で作動する感知器は主に『差動式熱感知器』であります。
一つ前にも書きましたとおり感知器は熱膨張で作動する仕組みです。台風がやってくると大気圧が下がります。気圧が下がることで『差動式熱感知器の空気室』が引っ張られ空気室が膨らみます。膨らむことで『スイッチON』になり作動することになります。
気象で誤作動を起こすような感知器は、『リーク孔』が詰まっていて、もともと調子が良くないものなので即刻交換することが必要になります。台風や雨で誤作動が起こることが多いという場合は差動式熱感知器であることが多いのです。
誤作動後の対応
- 気象条件で誤作動が起こる場合は差動式があやしい
- 交換することで発報しなくなる
ぶつけた【定温式熱感知器・差動式熱感知器】
熱系の感知器が熱感知部分をぶつけてしまうと作動してしまいます。熱感知部をぶつけてしまうことで信号を送るための接点も一緒に閉じてしまい『スイッチON』となり火災信号を発します。このような形で作動した場合は感知器を交換するまで復旧できなくなります。
熱感知器『定温式・差動式』 | ぶつけると変形し作動する |
引っ越し・搬入時に何かの拍子で物がぶつかって発報したケースがありました。特にマンションの押し入れに中段に天井に定温式の熱感知器が取付ていることがありますのでご注意ください。
また部屋の中でゴルフスイングをしているゴルフ狂の方も注意が必要です。
誤作動後の対応
- 受信機で復旧操作ができない可能性が高い
- 器具を交換する
雨・水漏れ【受信機・総合盤・感知器すべて】
雨・水漏れで火災報知設備が作動することがあります。機器類は電子部品のため雨や水がかかることで配線・端子部分がショートし、火災信号を発します。
水漏れの場合は天井に設置している火災感知器回路に水が入りこみショートすることで警報を発します。乾くまでは復旧できない可能性があります。
水によるショート以外にも発信機(押しボタン)の端子に水気をおびた埃ホコリの塊がこびりついていることがあります。このような場合は誇りを除去し線をむき直し再接続すると直ることがありますのでチェックしていただけると良いかと思います。
誤作動後の対応
- 水が乾けば受信機で復旧操作が可能になる
- 水漏れの改修・防水型の機器へ交換
エアコンからの距離が近い
エアコンからの距離が近い場合に誤作動を起こすことがあります。ただ、このようなケースは非常にまれで消防法令ではエアコンと火災感知器の距離を「1.5m以上離隔させなければならない」と謳われています。そのため消防設備点検の不良項目として上がり改修をすることになります。
居室の面積が狭く1.5メートルの距離を取れず、やむを得えなくエアコン付近に設置されていることがあります。エアコンの風がダイレクトに当たったり、風向きによっては感知器に影響を及ぼし誤作動を起こすことが考えられます。この場合では煙感知器、熱感知器(差動式スポット)もいずれかによるものとなります。
受信機劣化・基盤故障
火災受信機の劣化・基盤の故障で火災受信機が作動することがあります。湿度の高い場所に設置されていたり、風通しがよくホコリやチリなどが溜まりやすい場所では劣化速度が早くなる傾向があります。
高湿度・設置状況が芳しくない現場では基盤が結露したり内部のリレーが動かなくなることがあります。最近の火災受信機はチップで制御を行っているため、リレーが働かないというより、結露で基盤がショートして故障することが大半です。水気のある場所やホコリの溜りやすい風通しの良い場所に火災受信機を設置する場合は防水ボックスなどで保護した上設置することをお勧めいたします。
誤作動後の対応
- 受信機機能が停止したら全館で未警戒になる
- 火災受信機・基盤の交換をする
ネズミによる配線の損傷
ネズミで火災報知機が作動することがあります。商業地域などの繁華街では至るところにネズミが住んでいます。なぜネズミがいると発報するのか?というと、自動火災報知設備の警報回路を『ネズミがかじってしまう』ことにより、『電線がショート』し警報を発します。
警報用の配線は主に『1.2mm』『0.9mm』を使用します。これらの配線の被覆をありえないくらい噛みちぎり、銅線がむき出しになることが珍しくありません。このような場合では新たに配線を引き換え復旧させるしかないでしょう。
ネズミがいる場所は独特の匂いがあります。同業者の方であればすぐ「ここにはネズミがいる」ということが分かることでしょう。誤作動調査で現場に行ってみるとこの『独特の匂い』がすることが実際よくあるのです。
誤作動後の対応
- 配線を引き換える
- 改修の配線は露出にすればネズミもかじれない
施工不良やその他の誤作動原因
施工不良やその他の原因による場合もあります。これらのケースは多少レアであることと、居住者の方では対処できなく、我々のような専門業者でないと特定することが困難であると思われ詳しく書くことは控えておきます。
とはいえ、前述した原因によるものが8割以上であると断言できますので、楽な作業ではありませんが頑張って特定してみてください。必ずどこかに原因があります。原因がない誤作動はあり得ません。
誤作動を防止するためにできること
蓄積式の受信機や感知器を使用する
自動火災報知設備には蓄積機能というものがあります。感知器が作動すると受信機に信号が送られてから即時に発報するのではなく、一旦信号出力をとどめておき、一定時間が経過した後警報を鳴らす機能です。
建物竣工当時からかリニューアルしたことがなく、かなり古い機種を使用し続けている場合では、蓄積機能の搭載がないかもしれません。火災受信機のラベルに蓄積の有無が書かれていると思いますので気になる方がいらっしゃいましたら確認してみてください。
このような非蓄積受信機の対処法としては「蓄積式の感知器」を設置することで非火災報を防げるかもしれません。※蓄積式の受信機には蓄積式の感知器を使用することはできません。
できる組み合わせ | できない組み合わせ |
非蓄積受信機×非蓄積感知器 | 蓄積受信機×蓄積感知器 |
非蓄積受信機×蓄積感知器 | |
蓄積受信機×非蓄積感知器 |
消防設備には型式失効という制度があります。ある一定の期限を経過した物を使用することはできないといった決まりです。そのため現行の火災受信機ではほとんどが蓄積式です。
ただ、不特定多数の人が使用しない「マンション」「図書館」「学校」「工場」「倉庫」などの「非特定用途」では型式失効が適用されません。古いまま使用し続けることができるため40年以上経過した設備がそのまま設置されているというケースもよくあるのです。
定期的に点検を行い良いタイミングで交換する
感知器の不具合は点検時に分かることがあります。例えば異様に反応が早かったり、遅かったりします。毎日点検業務をやっていると感知器の動作方法に違和感を感じることがあります。そのような場合は早めの交換をお願いしております。
ではどのようなタイミングで交換するのが良いでしょうか?
時期については別記事に記載しておりますのでお手数ですが下記リンクを参照していただけると嬉しく思います。
自動火災報知設備の各機器は日本火災報知器工業会による「おおよその耐用年数」が設定されています。
例えば
- 火災受信機15年(電子機器多用していない 20年)
- 煙感知器 10年
- 熱感知器(半導体式) 10年
- 熱感知器 15年
- 発信機 20年
- 地区音響装置(ベル) 20年
です。これは義務ではなく、あくまでも目安ですが、この期間内に交換できれば誤作動の確率を下げられ、機器不良による誤作動や不作動の心配を取り除けることでしょう。
まとめ
- 火災感知器は誤作動を起こすことがある
- 誤作動には必ず原因がある
- 経年劣化で誤作動を起こすことがある
- 台風や気象状況で誤作動を起こすことがある
- ぶつけると誤作動を起こすことがある
- 雨・水漏れで誤作動を起こすことがある
- エアコンからの距離が近いと誤作動を起こすことがある
- 火災受信機の劣化で誤作動を起こすことがある
- ねずみのライフワークで誤作動を起こすことがある
- 施工不良での誤作動もありえる
- 蓄積式の受信機や感知器を使用し誤作動を防ぐ
- 定期的に良いタイミングで交換する
まだまだ他にもありますが、一般的なものはこのような感じです。機器類は耐用年数経過の目安で交換いただければ誤作動も少なくなることでしょう。
参考:消防法施行規則