2026年最新の民泊・旅館業施設の消防設備ガイド【行政書士×設備士が解説】

2023.03.30

住宅宿泊事業法に基づく宿泊施設(以下、民泊)あるいは旅館業に基づく宿泊施設(以下、旅館業施設)を始める際に避けて通れないのが消防法。

施設運営に関する法令の取扱や設置コストに関して全体像を網羅する内容を書いていきたいと思います。

※この記事では住宅宿泊事業法に基づく宿泊施設を「民泊」と定義して使用します。民泊(届出制)、旅館業施設(許可制)という言葉で記載いたします。

民泊と消防法の基本:なぜ一般住宅より厳しいのか?

一般住宅が宿泊施設用途に変わると、消防法令による規制が大変厳しくなります。理由は、もともと規制がかからない一般住宅が消防法令のなかでも特に強い規制のホテル用途(5項ロ)に変わるからです。

ホテル用途にかわると消防法令上「特定用途」となり、類似する用途は「カラオケ」「入院ができる病院」「老人ホーム」などと同様の用途になります。これらの用途は、生命や財産に大きな影響を及ぼすと考えられており、消防法令上特に厳しい基準が適用されることになります。

また、質問でよくいただく、住宅宿泊事業法(民泊)と旅館業施設は消防法令上同じ用途になります。仮にその施設が民泊から旅館業施設に変わっても設置する消防設備はそのまま使用できます。使用開始届を出してしまえば継続的に使用することが可能になります。

2. 民泊・旅館業施設に必要な消防設備6種類

1.民泊と消防法の基本で書きました通り、民泊と旅館業施設は同じ用途として扱います。(※ 建築基準法令では民泊(住宅)旅館業施設(旅館)は別々の用途になるため混同にご注意ください)

そのため民泊を旅館業施設に用途変更しても設備はそのまま使用でき、既存でそのまま使用する場合は追加の届出は必要ありません。このことを前提知識として持っていただければ幸いです。

①自動火災報知設備

特定小規模施設用自火報画像
特定小規模施設用自火報

自動火災報知機は、無線式の「特小自火報」と「有線式の自動火災報知設備」があります。前者は一般的に延べ面積が300㎡未満の施設で使用でき、後者は延べ面積が300㎡以上の建物に設置することになります。

有線式の自動火災報知設備には消防法令により設置基準が設けられています。一方、特定小規模施設用自火報は、別の設置基準があり「特定小規模施設」に設置することができます

もし入居する建物が500㎡未満の共同住宅で、民泊、旅館業施設用途が300㎡未満の場合でも使用することができます。※共同住宅と民泊、旅館業以外の用途が入ると使用できません。

特小自火報を設置する上の注意点が1点あります。それは「住宅用火災警報器」と形がそっくりなことです。間違って特小感知器と混同しない方にご注意ください。

家主居住型の小規模戸建 家主不在型の戸建・アパート・マンション1室 延べ面積300㎡以上の建物、または大規模マンション
必要な消防設備 住宅用火災警報器 特定小規模施設用(特小) 自動火災報知設備(自火報)
工事の難易度 低(電池式・DIY可) 中(無線式なら配線不要) 高(有線工事・専門技術が必要)
費用の目安 数千円〜 数万円〜数十万円 数十万円〜数百万円
消防署への届出 設置確認のみ 消防行政書士による設置届が必要 消防行政書士による設置届が必要
詳細解説記事 住宅用と自火報の違い 特小自火報を賢く安く設置するコツ 自火報の設置基準・法的根拠
現場の実例 特定一階段でも特小が使える条件 コンクリート物件への施工実例

有線式の自動火災報知設備を設置する場合は大幅にコストが掛かることになります。

②誘導灯

誘導灯画像
誘導灯

誘導灯は緑色の光っている装置です。民泊旅館業施設では原則誘導灯の設置が義務になります。理由は「1.民泊と消防法の基本」で紹介した「特定用途」になるためです。

特定用途になると誘導灯は義務となるので設置が必要になります。しかしながら、誘導灯にはいくつもの免除基準があります。基準に当てはまる場所については免除することができるので設計確認や消防事前協議が重要となります。

ただ、誘導灯の免除については担当消防官の主観がかなり影響するので、設計の間取りによっては免除できない場合もあります。

③消火器

訓練用の消火器画像

消火器は面積により設置基準が変わります。一般的には延べ面積が150㎡以上ある場合、地下、無窓階、3階以上の階では床面積が50㎡以上。その他条例による設置基準もあります。

東京の戸建ての場合、建物面積が設置基準以下となる物件が多いため、行政指導による設置になったり、設置をしないというケースもあります。

ただ、消火器自体は数千円で安全を考えると自主的に設置することをおすすめいたします。

④漏電火災警報器(木造のラスモルタル構造で契約電流が50アンペア超)

分割型変流器画像
分割型変流器

漏電火災警報機とは木造ラスモルタル構造の建物で、契約電流が50アンペアを超える場合に設置が必要になります。他、面積要件あり

ラスモルタル構造の建築物とは、外壁の中にメタルラスという金網を使用して、その金網にモルタルを塗り込む工法で建てられた建築物を言います。

ラスモルタル画像
※メタルラスが入った壁 ※壁を貫通した電気幹線が漏電し、メタルラス電気が流れることで流れ火災の原因となり得ます

現在の木造建屋の外壁素材はサイディングが一般的ですが、昭和時代に建てられた木造建築物ではラスモルタルが使われていたりします。木造なのに外壁がコンクリートのような仕上げの場合はラスモルタル構造の可能性がりますので注意が必要です。

⑤非常灯【建築設備】

非常灯画像
黒い設備が非常灯

非常灯は消防設備ではなく建築設備として取り扱います。消防法令上は非常灯の設置基準はありません。あくまでも建築設備法令に基づいた設置がなされます。

消防法令とのカラミでは非常灯が設置されている場合に誘導灯が設置免除されたり、通路誘導灯として取り扱ったりします。民泊や旅館業施設では各階から地上出口までに至る階段や通路に設けることで誘導灯の設置を免除することができる場合があります。

また、非常灯の工事をする場合は電源の取り方に注意が必要です。電源の取り方を間違えると停電時なので非常灯が点灯しない場合があります。しっかり適切な施工方法を確認する必要があります

⑥避難器具

一動作式避難器具の画像
一動作式避難器具

民泊や旅館業施設に避難器具が必要になるのは、原則、階の収容人数が「30人以上」になったときに必要になります。1点注意が必要なのは建物が「特定一階段等防火対象物」の場合は、階の収容人数が「10人以上」に厳しくなります。

そして、特定一階段等防火対象物に該当し、その建物に避難上有効なバルコニーがない場合は「1動作式の避難器具」が求められます。(※避難上有効なバルコニーは概ね2㎡以上)

もしも避難上有効なバルコニーがある場合は、消防法令の規定により、必ずしも一動作式避難器具が求められるわけではありません

また、一動作式の避難器具は多少面積を取ってしまうので、宿泊室に設置することになったら保健所の申請に影響が出てしまうおそれがありますので注意が必要です。

物件タイプ別の費用目安(相場観)

戸建て

一番オーソドックスなのが戸建てです。戸建ては平屋、2階建て、3階建ての順に費用が上がっていきます。戸建ての工事で大変になるのが避難階にブレーカーがない場合です。

大抵の物件では避難階の最終出口に誘導灯を設置します。誘導灯の電源は専用の回路から受電する必要があり直接ブレーカーから線をひっぱる必要があります。

避難階とブレーカーの設置場所が同じ階であれば横に線を引けばよいのですが、2階、3階にブレーカーがある場合は縦方向にも落とす必要があります。そうなると配線ルートが露出工事になりやすく工数がかかってしまいます。

  • 特定小規模施設用自火報
  • 誘導灯
  • 消火器
  • 非常灯

上記設備が必要になります。弊社では30万円~60万円くらいでレンジで数多く受注してきました。

②木造マンション、アパート

木造マンションは1室、数室、全室それぞれのパターンがあります。いちばん簡単なのは開放廊下、屋外階段の1室、数室の工事です。これらは特定小規模施設用自火報のみでOKなので非常に簡単に実施可能です。

全室設置する場合でも特定小規模施設用の電波さえ入れば施工は比較的容易に行えます。1点注意が必要なのが、民泊を行いたい物件が見つかって先に運営をしている人がいる場合は、特定小規模施設用自火報をペアリングして連動させる必要があります。

このあたりが上手く行けばそこまでは大変ではないものと思われます。

  • 特定小規模施設用自火報
  • 誘導灯(開放廊下屋外階段は不要)
  • 消火器
  • 非常灯

費用はケース・バイ・ケースです。10万円台後半~60.70万円くらいになるケース多かったです。

③鉄筋コンクリートマンション

鉄筋コンクリート(RC)マンションはコストがかかりやすい物件です。理由は電波が届きにくく特定小規模施設用自火報の設置ができないケースが多いためです。

構造の条件によっては2025年に電波中継機が発売され多少電波が届きにくい場所に中継電波を送れるようになりました。鉄筋コンクリート物件では間仕切りの構造により今でも無線式自火報では難しいこともあります。

このような場合は有線式の自火報を設置することになります。弊社ではいくつもの鉄筋コンクリート物件の自火報後付工事を受注してきました。建物の大小により費用感は一概に言えないので検討中の方がいらっしゃいましたらお問い合わせをお願いいたします。

④「番外編」大型物件の落とし穴

屋内消火栓がついている比較的大きな共同住宅に民泊用途で入居する場合は注意が必要です。理由は屋内消火栓には非常電源が必要になります。

共同住宅用途では非常電源受電設備という電気受電機で良かったものの、建物の用途が民泊、旅館業を含む用途になると「自家発電設備」などの非常電源が必要になります。

この設備は1,000万円を超えるケースも多いので要注意です。

※消防設備工事総括

弊社が今まで受注してきた民泊、旅館業施設の消防設備工事費用に関しては、建物の構造や状況によって大きく異なり、一概にお伝えすることが困難です。

工事費用に関しては、鉄筋コンクリート > 鉄骨 > 木造アパート > 戸建て の順に費用がかかってしまいます。どれだけの収益バランスで投資できるのかを慎重に検討する必要があります。

消防手続きの流れ:申請・届出・立会検査

民泊施設開設の届出を行う場合、消防署が発行した「消防事前相談記録書」が必要になります。消防申請を始めるためには、まずこの様式の取得から始める必要があります。

なお、旅館業施設場合は「事前相談記録書」は不要となります。

ステップ1:消防事前相談と相談記録書の取得

消防申請はこの事前相談記録書の作成から始まります。言い方を変えればこれがないと始まりません。

この様式は原則、管轄消防署にアポイントをとり、民泊を始めるにあたっての注意事項の説明を兼ねた事前打ち合わせです。

取得時はあらかじめ開設する施設の図面や面積情報などを持参すると話が早いです。設置する設備の種類や設置場所などについても教えてもらえます。

お時間がない方で取得をご希望の場合はタイムランで代行が可能です。

ステップ2:基準の特例申請(特小自火報の申請)

特定小規模施設用自火報を設置する場合、一般的な消防設備の基準と異なる取り扱いになるため「基準の特例申請」を行い設置できるか否かの審査を行います。特小自火報が設置できる要件は、その建物が特定小規模施設であることです。

該当する建物が特定小規模施設ではない場合は、通常の基準の自動火災報知機を設置する必要があります。通常の自動火災報知機は有線式のため費用が大幅に上昇します。

ステップ3:消防設備設置届

消防設備設置届は、各種消防設備を設置した場合に設置後の試験結果を添付し消防署に届けでる申請書です。特小自火報、誘導灯、消火器、漏電火災警報、それぞれ様式が異なります。

設置した消防設備についての設置届がそれぞれ必要になります。

なお、特小自火報で中継機を設けるもの、誘導灯、漏電火災警報器の設置には「消防設備士」や「電気工事士」の国家資格が必要になります。

ステップ4:使用開始届の提出

使用開始届は「これから私たちがこの建物を使用します」と宣言する届出です。東京消防庁管内で消防検査を受ける場合は、使用開始届を届け出ることにより消防立会検査予約が可能になります。

民泊や旅館業施設を開設する場合は、使用開始届と消防設備設置届のいずれも必要になります。もし既存の消防設備をそのまま使用できる場合は、使用開始のみ届出を行えば問題ありません。

ステップ5:消防立会検査と検査済証の発行

使用開始届と消防設備設置届が消防署に届けられたら消防検査を受けることになります。消防設備の検査は法令の根拠に基づいた方法により実施されます。

検査で指摘事項がない場合は約1間程で検査済証が発行されます。この検査済証は旅館業許可申請で必要になることがあります。東京の場合は消防検査が無事完了したら消防署から保健所へ完了の連絡が入ります。

開設後の法定点検とメンテナンス

工事が終わっても消防設備の管理義務は続きます。民泊、旅館業施設は、消防法令上の特定用途に該当します。

特定用途は6ヶ月に1回「消防設備点検」を行い、1年に1回「点検報告書」を管轄の消防署へ届け出る必要があります。

①消防設備点検の義務と必要な資格

消防設備の点検は消防法により「消防設備士」または「消防設備点検資格者」の資格を持った者が行います。点検の内容は、設備が正常に動くか、配線に漏電がないか、設置場所は適正かなど、法令で定められた基準のとおりに実施します。

物件によっては上記に書いた資格者以外でも点検、報告ができる場合があります。

消防法施行令第三十六条第二項(資格者に点検をさせなければならない対象)の反対解釈により延べ面積1,000㎡未満の建物で「特小自火報」「消火器」「誘導標識」のみの設置であれば無資格者でも点検および届出が可能です。

もし電気工事士の免状があれば「誘導灯」も追加されるので、対象建屋がかなり広がります。

このような場合で点検報告書の書き方がわからない場合はタイムラン行政書士事務所でオンライン点検と書類の作成代行を承ります。

バッテリー寿命と設備の耐用年数

民泊や旅館業施設で使用する特小自火報や誘導灯はバッテリーが搭載されています。これらの期限は約10年で寿命を迎えます。

特小自火報は電池切れが近づくと、バッテリーが切れる旨の警報を発する設計になっていますが、期限が近づいたら交換が必要になります。このエラーアラートが発せられたら速やかに電池を交換する必要があります。

また、誘導灯は本体に「ランプモニター」という警告灯が取り付けられています。このサインが出たら、誘導灯のランプとバッテリーの交換が必要です。交換後は本体に取り付けられているリセットスイッチを押せばランプが消えます。

まとめ:現場知識×法務でスムーズな民泊・旅館開業を

今回は民泊、旅館業施設開設に必要になる消防知識について書いてみました。消防関連知をほぼ網羅している内容になっています。

今後、皆様の適正な運営と維持管理にご協力できれば幸いです。施設の開設でお手伝いが必要でしたらご連絡をお待ちしております。

この記事の監修・執筆者
株式会社タイムラン代表
株式会社タイムラン代表 / 消防設備士・電気工事士・行政書士
村串 大輔
2005年より消防設備業界に携わり、2011年に株式会社タイムランを設立。自ら現場に立ち、自動火災報知設備やスプリンクラー、避難器具など、電気系から消火系まであらゆる消防設備の施工を数多く手掛ける。
2023年4月にはタイムラン行政書士事務所を開設し、現場知識と法務の両面から防災をサポート。これまでに手掛けた消防関連の申請届出は3,000件以上。現場のことはお任せください。

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