共同住宅・マンションの消防設備点検、ガス検診員を名乗った強盗事件が2020年、立て続けに発生してしまいました。全国ニュースでこの規模なので、未遂を含めるともっと多いでしょう。
景気が悪くなるとこの手の犯罪が増えてきてしまうのが現実です。犯罪に巻き込まれないよう自ら防衛し、業者の立場では点検達成率を落とさないための工夫がより必要になります。
発生した事件
逮捕容疑は8月30日午後1時半ごろ、東京都新宿区新小川町のマンションの一室に消防点検を装って侵入し、住人の男性の顔を殴って包丁を突きつけ「金を出せ。殺すぞ」などと脅迫。粘着テープで男性の両手足を縛り、約3万円とキャッシュカードを奪ったとしている。男性はあばら骨を折るなど1カ月のけがだった。
産経新聞
防火設備の点検業者を装って大阪府藤井寺市の住宅を訪れ、住人の女性(85)を脅して現金などを奪ったとして、大阪府警捜査1課は19日、強盗と住居侵入の疑いで、男3人を逮捕したと発表した。容疑者らは容疑を認め、1人が否認している。捜査1課によると、「会員制交流サイト(SNS)で裏仕事を検索した」と供述。事件についてのやりとりはメッセージが一定時間で消える通信アプリ「テレグラム」を使っていたとみられ、同課は他に指示役がいるとみて調べる。女性の口座からは数百万円が引き出された。
東京新聞web
東村山署によると、男2人はガス会社の検針員を装ってインターホンを鳴らし、「点検に来た」と説明。応対した妻は不審に思い断ったが、2人は無施錠の玄関から室内に押し入り、「金を出せ」などと夫婦を脅して顔を殴り、首を絞めた。
朝日新聞デジタル
このような事件が起こってしまうと、本来火災を予防するための消防設備点検を実施するという意義が『犯罪者だったら嫌だから入室を断る』という、点検拒否に繋がり、点検率が下がってしまうことが懸念されます。知らない人を家に上げるのは少し抵抗がある、という気持ちもわからなくないため、非常に難しい問題です。
今回は少しでも点検率を上げるためにどうすればよいか、弊社で実施していることを簡単にご紹介いたします。
それぞれの利害関係
大家さんの立場
大家さん、物件所有者の目線から見た場合、点検で不具合をチェックできず、火災が起こってしまい、初期消火に失敗し死人が出てしまった。このようなケースでは資産価値が下がってしまったり、告知義務が発生し買い手、借り手がつきにくくなってしまうことが想定されます。
また死亡事故が起こってしまうと事故物件サイト『大島てる』に掲載されることになるでしょう。新しく物件を探しているときにこのサイトを参照する方は多いかと思います。もしも新居が事故物件だったことを考えると敬遠されることは間違いないでしょう。※好き好んで事故物件に住みたいという方もいらっしゃるようですのでその限りではない。
点検業者・管理会社の立場
共同住宅の点検をする際、出来高で請求金額が決まる契約をされている会社様がいらっしゃいます。点検を拒否されてしまうと点検達成率が下がり請求できる金額も下がってしまいます。なので、入居者さんの協力が必要になってくるのです。
とはいえ、100%の達成率とはなかなか行かないのが現状です。共同住宅の場合70%を超えると達成率としてはかなり高いのではないでしょうか。いつも前向きに協力してくださる方はいらっしゃいます。協力したいけれど諸事情によりどうしても家に入れることはできない、という方もいらっしゃいます。入居者の協力あっての点検行為なだけにムリクリ実施することはできないのです。
点検達成率を上げられるか??
掲示物とポスト投函される案内用紙をしっかり確認
どこの会社でも消防設備点検を実施する際にA4の紙にて点検案内を掲示されていることでしょう。豪華なマンションに住まわれている方はタブレット端末などの案内機器で確認されていることでしょう。
案内は『点検1ヶ月前』くらいに掲示されていると思います。この案内掲示を見落としてしまうと、今回のような犯罪に巻き込まれてしまうということがあるかもしれません。もしもそのような場合は、作業員を中に入れる前に案内状にのっている管理会社に事実確認した上で点検にご協力いただくようお願いしております。
点検するときはベル試験から開始する
点検項目のはじめを地区音響試験からやっていきます。非常ベルを聞いた入居者は消防設備点検を実施しているということを確認できます。その後、各居室にうかがって点検の協力をお願いすることになります。
『今日が点検日であった』ということを忘れている方が結構いらっしゃいます。そのような方でも、非常ベルが継続的に鳴ることで、点検実施を思い出してくれます。朝早くて鳴らせないという場合は、先に他の項目から実施し、鳴らせる時間になったら鳴らすということで、多少ではありますが点検率をUPできる可能性があります。
女性スタッフを登用
最近では女性が消防設備業に従事し活躍されている方が増えてきております。女性一人暮らしのお宅には女性が伺うことで安心してもらえることは間違いなさそうです。
行き違いの対応
中には、その時間を外出していて行き違によりたまたま不在にしてしまったというケースもあります。契約状況により、『時間まで待っていて、再度訪問するのか?』『不在のところはそのままでOK』など、さまざまな契約形態があることでしょう。
いつ戻ってくるか分からないのに『ひたすら待ちぼうけ』というのもなんだか非効率なので、弊社の場合は管理会社さんに不在の部屋をその場で個別連絡をしてもらうことがあります。不動産さんには負担になるかもしれませんが、達成率をあげたい管理会社さんはきっと協力してくれるはずです。設定時間より早く終わりクレーム防止にもなるでしょう。
設備リニューアルで解決する方法
アドレス付きの火災報知設備にする
火災報知設備には『通常のもの』『自動試験機能付き』のものがあります。この2つの違いはそのまま、自動試験機能がついているかどうかです。自動試験機能は一定の周期で自動的に伝送回路を使用し火災報知システムを監視しています。もしも不具合があった場合はエラー表示により火災受信機により分かるようになっています。
このシステムが一般化してきたのはつい最近のことで、自動火災報知設備のリニューアルのタイミングは新設から15年・20年とされています。今から遡って15年前に自動試験機能を搭載した火災報知システムは、ごく一部の大型施設に限定されていました(R型自動火災報知設備)。
ここ最近になり新機種が続々と投入されたことにより小規模施設でも積極的に採用されるケースが増えてきました。もしもリニューアルをお考えのオーナーさんがいらっしゃいましたら『自動試験機能付き』を候補の一つに加えてみて検討していただくことを推奨いたします。
この火災システムを使用することのメリットは、先にも書きましたとおり『自動試験機能』です。実際に煙を入れたり熱を加える必要はなく、不在の場合で居室に立ち入れない場合でもシステム上で点検が完了してしまいます。
ただ、外観上の目視点検は必要になりますので、あくまでも不在対策の一つとして自動試験が有効であるということです。
参考:消防法施行令