一動作式避難器具を設置してきた【緩降機の新規設置工事】

一動作式避難器具を設置してきた【緩降機の新規設置工事】

一動作式避難器具(緩降機 かんこうき)の設置工事依頼をうけ設置してきました。緩降機は着用具を体に巻き付け、避難する階に設置した専用のアームを展開し、ロープでぶら下がるような格好で避難する避難器具です。この避難器具は、避難器具の特性上体にガッチリと装着すため、転落の恐れがある避難はしごよりも安全に避難階に到達することが可能といえます。

一動作式が必要になる要件は、特定一階段等防火対象物に使用する場合で「安全かつ容易に避難することができるバルコニー」がなく、「常時容易に確実に使用できる」状態にない場合に設置が必要となります。言い回しがややこしいですが、別の記事に記載していますので参照していただけますと幸いです。

参考記事:特定一階段等防火対象物への避難器具設置

東京は建築条件が厳しく1動作式の避難器具が求められることが多い

 冒頭に書きましたが、一動作式が必要になる条件として「安全かつ容易に避難できるバルコニーがない場合」とかきました。この要件は、概ね2㎡以上の面積を有しかつ、安全上必要な手すりや転落防止措置を施したもの以外に設置する場合に義務となります。

今回の案件は東京都の都心部で建物が密集しているエリアでした。東京は敷地面積に余裕のある建物ばかりではなく、比較的小さい建物でギリギリ消防設備の設置基準にひっかかるケースがかなり多くあります。そのため設置基準ギリギリのラインで消防設備を設置する場合様々な制限を受けることになります。

設置基準がギリギリということは、建物面積が小さめだけど設備の専有面積が増えるということになります。特に避難器具の場合は「操作面積」という器具を操作するために必要な面積を確保する必要があます。

操作面積は「縦0.6m✕横0.6m:面積が0.5㎡」以上必要になります。この操作面積は「避難はしご」「緩降機」「ハッチ式救助袋」「滑り棒」「避難ロープ」に適用されます。この列記した避難器具を設置する場合は操作面積が必要になります。

設置階に避難器具の設置場所を検討する

避難器具の設置基準は「その階ごとの収容人数」で決まります。病院、老人福祉施設、幼稚園などは「20人以上」、ホテル旅館、共同住宅は「30人以上」、キャバレー、物販、学校、図書館、浴場、神社等は「50人以上」、そして今回の物件は特定一階段等防火対象物なので、その収容人数は「10人以上」となります。※この人数は原則的な数字で他の要件もありますのでご注意ください。過去記事リンクを記します。

参考:避難器具の設置基準

避難器具は床に設置するものや壁に設置するものががります。これらの避難器具は基本的に「金属拡張アンカー」を使用して設置します。アンカーは鉄筋コンクリート造り(RC造)でなければ強度が取れず使用することができません。ALC(ヘーベル)で施工している鉄骨造ではアンカー工法はできないのでその場合は、壁や床を金属のステーで挟み込み設置する器具を固定する方法で施工します。

ハンマードリルでコンクリート孔開けとアンカーセット

コンクリートへの穴開けはハンマードリルを使用します。通常のドリルは横方向に回転運動のみ行いますが、コンクリートは回転のみで穴あけはできません。横方向に加えて縦方向に上下する3Dな動きをするスグレモノです。床置きの場合ボルトを4本打ち込みます。一般的にはM12のアンカーを使用し、アンカー1本あたりで約1,700kgf引き抜き強度がとれ、4本打ち込みます。

4本孔を開け終えたらM12アンカーをセットしていきます。避難器具の設置に使用するアンカーは「増し締めができるオネジ式のもの」でなければなりません。アンカーの選定や工法についても消防法令で細かく定められており、建物利用者がより安全に避難できるよう考慮されています。詳細は下の消防庁告示をご参照ください。

一動作式緩降機械本体をセット

アンカーを打ち込んだ後は一動作式緩降機をセットしナット締めしていきます。ワッシャー、スプリングワッシャー、ナットの順でセットしていきます。ワッシャーは開口の調整、スプリングワッシャーはナットが緩まないようにするために使用します。緩降機本体を4本のアンカーボルトで曲の内容にしっかりと固定していき最後に「トルクレンチ」で適正値まで締め付けて設置が完了となります。

トルクレンチに設定する値についても「避難器具の設置及び維持に関する技術上の基準の細目」に記載があります。その内容を下に引用します。

避難器具の設置及び維持に関する技術上の基準の細目

 固定部材にアンカーボルト等を使用するものにあっては、当該アンカーボルト等の引
き抜きに対する耐力を設計引抜荷重に相当する試験荷重を加えて確認すること。
この場合において試験荷重は、アンカーボルト等の引き抜き力を測定することのでき
る器具等を用いて、次の式により求められる締付トルクとすること。

T=0.24DN
T:締付トルク キロニュートンセンチメートル
D:ボルト径 センチメートル
N:試験荷重(設計引抜荷重) キロニュートン

トルク計算については別記事「緩降機の引き抜き強度試験」に記載していますのでこちらを参照いただけますと幸いです。

緩降機設置完了

東京を始め都市部の建物密集地で避難器具を後付する必要がるときは、様々な制約の中で施工をすることとなります。特に注意しなければならないのはテナントの入れ替えなどで建物全体が「特定一階段等防火対象物」に変わってしまったときです。もし特定一階段等防火対象物になった場合、階の収容人数が「10人」以上で避難器具の設置義務が発生します。

避難上有効なバルコニーがない防火対象物の場合は今回設置した「一動作式」が求められます。ビルオーナーさんや不動産仲介業者の方はこれらの用途の変更による消防設備義務設置についても考慮し慎重に検討していく必要があるのかと思います。

建物の収容人員の算定方法

建物内の収容人数は計算方法が定められています。例えば飲食店店舗の場場合「固定椅子の数」「従業員の数」「それ以外の面積を3で割った数」を合算した数がその用途の収容人数になります。詳しいことは別の記事に書いていますのでリンクを参照していただけますと幸いです。【防火対象物用途の収容人員・算定基準について

その他避難器具に関する記事

避難器具の設置基準や関連記事のリンクを参照いただけますと幸いです。

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