非常電源専用受電設備が非常電源設備として使用できなくなる場合について
消防設備は緊急時に確実に動作することが求められるため万が一電源供給が途絶えた場合でも問題なく動かすための措置がとられています。
基本的な非常電源は「非常電源受電設備」「自家発電設備」「蓄電池設備」「燃料電池設備」があります。イメージでは中規模物件に「自家発電設備」があり、大規模物件になれば「自家発電設備」「蓄電池設備」「燃料電池設備」等が設置されるという具合です。
・非常電源受電設備
キュービクル、認定キュービクルは建物で使用する電気を引き込み使用する設備なので下の自家発電設備ではない。
・自家発電設備
軽油等を使用したディーゼルエンジン等で発電することができる発電機。
・蓄電池設備
バッテリーを連結させ必要な電源を供給。通常時は充電しながら非常時に向けて待機。
・燃料電池設備
水素、酸素を化学反応させて発電し電源を供給する発電機。
非常電源設備が必要な消防設備
冒頭に消防設備は非常電源が必要と書きましたが、主にここでいう消防設備は「屋内消火栓」「スプリンクラー」「水噴霧消火設備」「泡消火設備」「屋外消火栓」「排煙設備」「非常コンセント設備」を指します。
これらの設備は設備の構造上(大きな電気を使用したり、設備の規模が大きくなりスペースの問題など)により予備電源をはじめから搭載される設計がされていません。そのため安定した電源を供給するための非常電源設備が必要になります。
話がそれますがその他の消防設備「自動火災報知」「非常放送」「誘導灯」などは比較的小さい電気で動かすことができるため、設備本体に備え付けているバッテリー供給で問題ないとされています。
特定用途(16項イ)で延べ面積1,000㎡以上の場合は非常電源受電設備が使えない【消防法施行規則】
非常電源の中には非常電源受電設備が含まれています。この設備は簡単に言うとキュービクルで、電気をビル引き込み使用するための設備です。キュービクルは発電機ではないので電力会社からの供給が途絶えると設備は使えなくなります。
そのため、非常電源受電設備の場合は一定の条件の場合は使用することができない決まりになっています。その決まりは次のとおりです。
①延べ面積が1,000㎡以上 かつ
②建物の用途が特定用途(小規模特定用途を除く)
①②のどちらの条件にも該当する場合は非常電源受電設備は使用できず、「自家発電設備」「蓄電池設備」「燃料電池設備」の設置が必要になります。
屋内消火栓設備の非常電源は、非常電源専用受電設備、自家発電設備、蓄電池設備又は燃料電池設備(法第十七条の二の五第二項第四号に規定する特定防火対象物(以下「特定防火対象物」という。)で、延べ面積が千平方メートル以上のもの(第十三条第一項第二号に規定する小規模特定用途複合防火対象物を除く。)にあつては、自家発電設備、蓄電池設備又は燃料電池設備)によるものとし、次のイからホまでに定めるところによること。
消防法施行規則12条1項4
非常電源は、第十二条第一項第四号の規定の例により設けること。
消防法施行規則
他設備の準用条文
スプリンクラー設備(14-1-6の2)、水噴霧消火設備(16-32-2)、泡消火設備(18-4-13)、屋外消火栓(22-6)、排煙設備(30-1-8)、非常コンセント設備(31-1-8)
非特定用途でも受電設備が使えない場合【東京都火災予防条例】
消防法施行規則(省令)の条文を確認すると「特定用途」かつ「延べ面積が1,000以上」という条件に当てはまっていれば専用受電設備が使えませんでした。つまり特定用途ではない非特定用途である場合は専用受電設備が使えるということです。
東京の場合火災予防条例により「非特定用途」の場合でも専用受電設備が使えないケースが定められています。それを次にまとめます。
①地階を除く階数が11以上で延べ面積が3,000㎡以上
②地階を除く階数が7以上で延べ面積が6,000㎡以上のもの
③地階を除く階数が4以上で地階の延べ面積が2,000㎡以上のもの
この付加条文を他の道府県を軽く流し見てみたら、千葉市、横浜市で同じような条文が見られました。日本第2の都市「大阪市」では見当たりませんでした。興味のある方は条例についても調べてみると新しい発見があるかもしれません。
第一項又は令第十一条第一項及び第二項の規定により設ける屋内消火栓設備(令別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十六)項イ及び(十六の二)項の用途に供する防火対象物(小規模特定用途複合防火対象物(省令第十三条第一項第二号に規定する小規模特定用途複合防火対象物をいう。以下同じ。)を除く。)に設けるものを除く。)のうち、次に掲げる防火対象物に設けるものに附置する非常電源は、自家発電設備、蓄電池設備又は燃料電池設備を設けなければならない。
東京都火災予防38条3項
一 地階を除く階数が十一以上で延べ面積が三千平方メートル以上のもの
二 前号に掲げるもののほか、地階を除く階数が七以上で延べ面積が六千平方メートル以上のもの
三 前二号に掲げるもののほか、地階の階数が四以上で地階の床面積の合計が
二千平方メートル以上のもの
のちに自家発、蓄電池設備、燃料電池設備が必要になるケース【非特定用途が特定用途になる場合】
現在非特定用途で使用している3,000㎡の建物があったとします。事務所やスポーツジムなののテナントが退去し、空きテナントに病院、飲食店、物販、ホテルなどの不特定多数が利用できるできる用途が入ったときは、建物の用途が特定用途に変わるため非常電源専用受電設備が使えなくなります。
そして、専用受電設備の代わりに「自家発」「蓄電池」「燃料電池」などの非常電源設備を入れ替えなければならなくなります。知らないでうっかり用途を注視せず入居させてしまうとあとから大きな費用がかかることになるので要注意です。
共同住宅(5項ロ)が民泊(5項イ)や福祉施設(6項ロ、ハ)に変更した場合の救済措置
竣工当時は共同住宅(5項ロ)で建っていた建物の一部を「民泊」「旅館業施設」や「介護施設」(6項ロ、6項ハ)に転用する場合があると思います。そもそも共同住宅は非特定用途なので延べ面積が1,000㎡以上になっても非常電源専用受電設備による受電が可能でした。
それが民泊や福祉施設が入居することで建物の用途が「非特定用途」から「特定用途」に変更されることになります。そして消防法施行規則どおり施工する場合は「自家発電設備」「蓄電池設備」「燃料電池設備」を新たに設置することが必要になり多額の費用がかかってしまいま。このような場合は次の条件下で「専用受電設備」でよいとされています。消防予防通知がありますので下に引用いたします。
令別表第1、共同住宅(5項ロ)に掲げる防火対象物の一部の住戸を同表宿泊施設(5項イ)並びに福祉施設(6項ロ及びハ)に掲げるいずれかの用途として使用することにより、延べ面積1,000㎡以上の同表、特定用途複合防火対象物(16項イ)に掲げる防火対象物となる場合であっても、同表、宿泊施設(5項イ)並びに福祉施設(6項ロ及びハ)に掲げる防火対象物の床面積の合計が1,000㎡未満であって、かつ、規則第13条第1項第1号の規定に適合するもの又は10階以下の階において次に掲げる要件を満たすものについては、令第32条の規定を適用し、スプリンクラー設備、連結送水管(令第29条第2項第4号ロの規定により加圧送水装置を設けたものに限る。)及び非常コンセント設備に附置する非常電源を非常電源専用受電設備としてよいか。
消防予第83-問6
1 居室を耐火構造の壁及び床で区画したものであること。
2 壁及び天井(天井のない場合にあっては、屋根)の室内に面する部分(回り縁、窓台その他これらに類する部分を除く。)の仕上げを地上に通ずる主たる廊下その他の通路にあっては準不燃材料で、その他の部分にあっては難燃材料でしたものであること。
3 区画する壁及び床の開口部の面積の合計が8㎡以下であり、かつ、一の開口部の面積が4㎡以下であること。
4 3の開口部には、特定防火設備である防火戸(廊下と階段とを区画する部分以外の部分の開口部にあっては、防火シャッターを除く。)で、随時開くことができる自動閉鎖装置付きのもの若しくは次に定める構造のもの又は防火戸(防火シャッター以外のものであって、2以上の異なった経路により避難することができる部分の出入口以外の開口部で、直接外気に開放されている廊下、階段その他の通路に面し、かつ、その面積の合計が4㎡以内のものに設けるものに限る。)を設けたものであること。
⑴ 随時閉鎖することができ、かつ、煙感知器の作動と連動して閉鎖すること。
⑵ 居室から地上に通ずる主たる廊下、階段その他の通路に設けるものにあっては、直接手で開くことができ、かつ、自動的に閉鎖する部分を有し、その部分の幅、高さ及び下端の床面からの高さが、それぞれ、75cm以上、1.8m以上及び15cm以下であること。
5 令別表第1(5)項イ並びに(6)項ロ及びハに掲げる防火対象物の用途に供する各独立部分の床面積がいずれも100㎡以下であること。