東京都火災予防条例では火気使用に関する制限が加えられています。条例は法律と違い、全国一律に適用されるものではなく、地方の行政が国から独立し、自らの意思決定により制定する独自の防火安全上のルールです。
今回は東京都の基準について書いていきますが、他の地方公共団体については基準が異なる場合があります。
はじめに消防の法体系について
消防に関する法体系は「消防法」「消防法施行令」「消防法施行規則」「条例」「自治体の長の定める規則」があります。消防法、消防法施行令、消防法施行規則は国が定めるもので、条例、自治体の長が定める規則は地方公共団体によって定められます。
東京都は地方公共団体に該当するので東京都議会により火災予防条例を制定することができます。また他の地方公共団体を見てみると東京都などの都道府県ではなく、「横浜市火災予防条例」「さいたま市火災予防条例」「千葉市火災予防条例」などの市議会により火災予防条例が制定されています。
法令 | 法令の内容 | |
国 | 消防法 | 国会により制定される |
消防法施行令【政令】 | 内閣が定める命令 | |
消防法施行規則【省令】 | 総務大臣が定める命令 | |
自治体 | 火災予防条例【東京都】 (法律の範囲内で制定可能) |
自治体の議会が定める |
自治体の長の定める規則 | 知事、市町村の長が定める |
火の使用に関する制限等
東京都火災予防条例を例にすると1章の総則から始まり、10章の罰則、附則で終わります。この内容は特に消防法の構造と変わりありません。地方自治により定めた法律(条例)なので構造自体は基本的に同じです。
火気の使用制限については3章に記載されています。
条例で定められていること | ||
1章 | 総 則 | 条項 |
2章 | 削 除 | 1条 |
3章 | 火の使用に関する制限等 | 3条~29条の2 |
4章 | 指定数量未満の危険物及び指定可燃物の貯蔵及び取扱いの技術上の基準等 | 30条~34条の4 |
5章 | 消防用設備等の技術上の基準の付加 | 35条~47条 |
6章 | 避難及び防火の管理等 | 48条~55条の5 |
7章 | 住宅における防火安全の確保 | 55条の5の2、5の4 |
8章 | 火災予防審議会 | 55条の6~13 |
9章 | 雑 則 | 56条~61条 |
10章 | 罰 則 | 66条から68条 |
附則 | - | - |
火気使用に関する制限について
東京都火災予防条例のリンクをたどると頭が痛くなりそうな条文がズラッと現れます。今回は3章の23条「火の使用に関する制限」に関する条文を見ていきます。
条項 | 書いてあること | |
① |
23条 |
次の場所で消防総監が指定するものにおいて、喫煙、裸火、火災予防上危険な物を持ち込んではいけません。 |
② | 23条2項 | ↑の場所には、客席の前面など見やすい場所に、喫煙、裸火の使用又は危険物品の持込みを禁止する旨の標識を設けなければなりません。 |
③ | 23条3項 |
【重要文化財、重要有形民族文化財、史跡若しくは重要な文化財として指定され、又は重要美術品として認定された建造物の内部又は周囲】以外の防火対象物関係者は次の措置をしなけらばなりません。 |
条文の23条を見ると、劇場、映画館、演芸場、物品販売業を営む店舗又は展示場の売場又は展示部分、地下街の売場、重要文化財又は、火災が発生した場合に人命に危険を生ずるおそれのある場所では火の使用について制限が設けられています。
このような場所では喫煙、裸火の使用、火災予防上危険な物の持ち込みはできません。劇場、映画館、演芸場、、、等の不特定多数が出入りする場所での火気使用は非常に危険であることが想像できます。
一方で、全て禁止にするとで不合理が発生することがあります。例えば演劇中に舞台で喫煙をするシーンや、ライブパフォーマンスなどで花火や爆発等の演出を行う場合です。またスモークマシンによってはオイル(危険物)を使用して発煙させる物もあります。
特に注意すれば安全上問題ないのに、全て禁止となっては盛り下がってしまいます。このような物品を使いたい場合には消防署に「禁止行為の解除」の申請を行い、喫煙、裸火の使用、危険物持ち込みの禁止を解いてもらうことができます。このことを解除承認といいます。
(喫煙等)
東京都火災予防条例
第二十三条
次に掲げる場所で、消防総監が指定するものにおいては、喫煙し、若しくは裸火を使用し、又は当該場所に火災予防上危険な物品を持ち込んではならない。ただし、消防署長が、消防総監が定める基準に適合していると認めたときは、この限りでない。
一 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂若しくは集会場(以下「劇場等」という。)の舞台又は客席
二 百貨店、マーケットその他の物品販売業を営む店舗又は展示場(以下「百貨店等」という。)の売場又は展示部分
三 地下街(法第八条の二で規定する地下街をいう。以下同じ。)の売場
四 文化財保護法(昭和二十五年法律第二百十四号)の規定によつて重要文化財、重要有形民族文化財、史跡若しくは重要な文化財として指定され、又は旧重要美術品等の保存に関する法律(昭和八年法律第四十三号)の規定によつて重要美術品として認定された建造物の内部又は周囲
五 前各号に掲げるもののほか、火災が発生した場合に人命に危険を生ずるおそれのある場所
2 前項に規定する消防総監が指定する場所には、客席の前面その他の見やすい箇所に、喫煙、裸火の使用又は危険物品の持込みを禁止する旨の標識を設けなければならない。
3 第一項に規定する消防総監が指定する場所(同項第四号に掲げる場所を除く。)を有する防火対象物の関係者は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める措置を講じなければならない。
一 防火対象物内での喫煙を禁止する場合 定期的な巡視その他の消防総監が火災予防上必要と認める措置
二 前号に掲げる場合以外の場合 第一項に規定する消防総監が指定する場所以外の場所における適当な数の吸殻容器を設けた喫煙所の設置及び当該場所が喫煙所である旨の標識の設置
4 第一項に規定する消防総監の指定する場所の関係者は、当該場所で喫煙し、裸火を使用し、又は当該場所に危険物品を持ち込もうとしている者があるときは、これを制止しなければならない。(昭五〇条例四五・昭五九条例一一四・平二条例七二・平四条例一一六・平九条例四五・平一六条例一二八・一部改正)
禁止行為の解除承認を得られないものがある
解除承認の申請前の確認事項として、禁止行為の解除ができる場所とできない場所があります。画像の表を見ると地下街、高さ100m以上の建築物は解除承認を得ることができません。詳細については東京消防庁のHPに記載されています。
解除承認を得るための基準
消防総監が定めた基準に管轄の消防署長が適合していると認めた場合に禁止行為の解除承認をうけることができます。ただし、申請内容が審査基準に適合しても、その他の法律、状況、防火に関する規定により認められない場合や、以前に承認が得られた場合と同様の建物だからといって承認を得られるということではありません。
あくまでも禁止さえた行為を例外的に解除するということなので物件やその時の状況により総合的に判断するということになります。