公表制度とは、消防法令違反が改善されない場合、その建物の違反状況を広く公に周知させる制度です。違反物件を公表することにより建物維持義務者に対して消防法令遵守を心理的に促すことが目的の一つです。
周知方法は各消防本部のホームページ等で簡単に確認でき、是正が確認できた場合はその公表された事実事項を削除する手続きが取られます。
総務省消防庁のサイトに「違反公表制度実施消防本部ホームページリンク集」がありましたので貼っておきます。また、東京消防庁では違反物件を地図上で確認できるサービスをて提供しています。
日頃利用している建物が違反物件だった、といったことがあるかもしれません。違反物件は火災が発生したときの人命に関わるリスクが通常よりもかなり高くなりますので、こまめにチェックするのも自己防衛の1つかもしれません。
・消防設備点検未実施
・防火対象物点検未実施
・自動火災報知未設置
・各種消防設備未設置
・防火管理者未選任
・消防計画未届
・防火設備周辺の不備
・内装工事の防火上の不備 他
公表に関する条文について
東京都火災条例第64条の3、3項では公表に関する項目が定められています。ざっくり言うと、「消防総監には法律、政令、条例に違反する物件について公表する権限がある」と書かれています。2項はその旨を周知すること、3項は手続きについては規則に委任するということが書かれています。
(防火対象物の設備、管理等の状況の公表)
第六十四条の三
消防総監は、防火対象物の設備、管理等の状況が法、令及びこの条例の規定に違反する場合は、都民が当該防火対象物を利用する際の判断に資するため、その旨を公表することができる。2 消防総監は、前項の規定による公表をしようとする場合は、当該防火対象物の関係者にその旨を周知するものとする。
3 第一項の規定による公表の対象となる防火対象物及び違反の内容並びに公表等の手続は、規則で定める。
東京都火災予防条例第64条の3-3項
手続きに関する内容は「東京都火災予防条例施行規則第25条の4」に記載されています。内容は、「消防設備関連の設置や維持に関する項目」については、立入検査の結果を相手方に通知した日から起算して「14日」経過した日に違反が是正されていないとき。管理などに関する項目で「防火管者、消防計画、、避難訓練関連など」は「2ヶ月」経過した日に違反が是正されていないときに、消防総監は公表をすることができるということになります。
よく聞かれる2週間以内に是正るする必要があるというのはこの条文からきているのです。
(公表等の手続)
第二十五条の四
条例第六十四条の三第三項の規則で定める公表等の手続のうち公表の方法は、次に掲げるものとし、立入検査の結果を通知した日から、前条第二項第一号の違反にあつては十四日、同項第二号の違反にあつては二箇月を経過した日においてなお同一の違反が認められる場合に公表するものとする。
一 東京消防庁ホームページへの掲載
二 東京消防庁本部並びに前条第二項各号に規定する違反が認められた防火対象物が存する区域を所轄する消防署並びに当該消防署に置かれた消防分署及び消防出張所での閲覧
東京都火災予防条例施行規則第25条の4
公表制度は行政処分ではないので比較的容易に行える
まず、公表は行政処分に該当しません。処分は判例により定義されており「権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」をいいます。
行政処分をするためには様々な手続きを経る必要があり、違反物件だからといってすぐ改善命令などの処分するということができません。一方で「公表」は行政処分に該当しないため処分と比較して容易に名宛人に対して制裁を加えることができます。公表することにより義務違反に対する改善を促すことを目的としています。物件が公表されても改善されず違反状態を放置するような場合は行政処分に移行することになります。
公表は処分と行政指導の中間的にあり、処分前の猶予として行われます。公表されるということは何度も消防本部からの指導を何らかの理由で改善されなかったり、よくわからずに放置してしまった等さまざまかと思います。
いきなり消防署が公表することは無いので、防火管理上の不備がある場合は速やかに改善、是正することが重要になります。
公表されるきっかけとなる出来事
違反物件として公表されるきっかけはいくつかあります。代表的なものを挙げると「消防設備点検」「防火対象物点検」「消防査察」「内装工事」となります。これらは消防法令を維持管理する上で主要な業務となります。
- 消防設備点検の不備を放置
- 防火対象物点検の不備を放置
- 消防査察による指摘事項を放置
- 内装工事による消防検査での指摘事項を放置
消防設備点検(6ヶ月に1回の点検と1年に1回届出)
※非特定用途は3年に1回届出
消防設備点検は通常6ヶ月に1度実施さされます。この点検では、建物に設置されている消防設備が適正に使用できる状態にあるかをチェックしていきます。本来必要な設備が設置されていない場合につけも「未設置」として報告書に記載します。
もし点検で不備事項があれば点検結果報告書に不要項目として記載することになります。報告書は年1回(マンション、事務所、不特定多数が使用しない用途は3年に1回)届出する義務があります。
この点検の不良項目を何らかの理由により長い間是正することなく放置した場合は、公表や行政処分の対象になります。
参考記事:特定用途と非特定用途
防火対象物点検(年1回の点検と届出)
防火対象物点検は、防火管に関するソフト面に対してチェックしていくものです。例えば「防火管理者が選任されているか」「消防計画が作成され届出がされているか」「消防訓練を実施し、訓練通知書の届出が行われているか」「絨毯やカーテンは適切なものが設置されているか」「厨房などの内装材料や火気設備関係との離隔距離が消防法令通りか」など、非常に細かい項目を点検していきます。
これらの項目について不備事項があれば、すみやかに改修および是正を行う必要があります。長い間是正を行うことなく放置すると公表や行政処分の対象になります。
消防査察による指摘
数年に1度消防署が査察にやってきます。東京はビルが多いので消防職員が回りきれず、ほとんど来ないということもあります。そのような場合は我々のような消防設備業者が実施した、消防設備点検報告書や防火対象物点検報告書を基に消防署から電話が来たりします。
消防査察で見つかった不備事項については、期限を設定し改修予定月を記した改修計画書を届けることになります。予定通りに改修が行われず、さらにそのまま放置するようなことがあれば、公表や行政処分の対象になります。
消防査察は比較的大きめの火災が起こると、その火災が起こった用途に対して集中的に査察を行うことがあります。例えば2001年に発生した歌舞伎町の火災後、同様の雑居ビルに一斉査察が入りました。
内装工事による消防検査での指摘
テナント内装工事を行う場合、東京では工事に着手する前に「工事計画届」を届出する必要があります。この届出は「使用開始届」と同様の内容で、内装工事の設計事項をあらかじめ届出を行い工事後に是正、改善をする必要がないよう実施されている制度です。工事完成後、何らかの法令違反があり手直しをする場合は、費用も時間も無駄になってしまいます。
また、工事計画届を届出することなく工事が完成した場合で、消防立会検査時に不備が見つかった場合は消防官から是正を命じられます。このときにしっかり是正が行われればよいのですが、工事が完成して放置されるというパターンは意外と多く、実際に自分も何件も見てきました。
工事が完了した場合、6ヶ月後に「消防設備点検」があり、1年後に「防火対象物点検」があったとします。そうなると改装工事の消防検査で指摘されたことが法定点検に引き継がれることになります。時間が経過すれば忘れられるというものではありません。内装工事では是正が発生しないよう消防署と十分に打ち合わせして施工する必要があります。
公表の差止めや取消しはできない
防火対象物が公表された場合について、余程のことがない限り、差し止めや取消はできません。なぜかというと公表は処分に該当しないからです。
公表は「この物件は消防法令に違反していますよ~」「自動火災報知設備がついていませんよ~」「消防設備点検が実施されていませんよ~」といった事実事項を国民にアナウンスしているにすぎません。
建物関係者に対して「ナニナニしなさい、さもなければ、、、」ということではなく、「今まで改修や改善をお願いしたいたのだけどやってくれないからみんなに知らせちゃおう」といった感じです。
行政指導の延長に公表があるのです。もし公表されてしまった場合は速やかに法令違反事項について改修、改善する以外ありません。
それでも改善しない場合は行政処分となる
行政処分(命令)の定義は「国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」をいいます。つまり、行政処分は法律の根拠があり、その根拠を基として建物所有者や関係者に対しての是正命令を下しているのです。
もし処分(命令)をうけてもなお義務を履行しない場合は、告発→起訴という流れで、審理内容にもよりますが、最終的には実刑となる判決が下ることになります。例えば、自動火災報知設備を設置するよう求められていたにも関わらず、何度も繰り返し従わなかった場合は消防法39条2項2号の「防火対象物に対する措置命令違反」に該当し3年以下の懲役又は200万円以下の罰金という罰則が設けられています。
この罰則は罰金と懲役の併科が可能なので、両方の罰則が適用される場合があります。
参考記事:消防法令違反における罰則について
消防法令違反は基本的に聴聞は行われない
行政が不利益処分を行う場合、処分をすべき差し迫った必要がある場合を除き、不利益処分の理由を示さなければなりません。また不利益処分を行う場合は、意見陳述(言い訳)の機会が与えられます。処分が重くなれば口頭による「聴聞(ちょうもん)」が行われます。そうでない場合は書面による「弁明の機会」が与えられます。
しかしながら、消防設備関連で不利益処分を受ける場合については少し状況が異なります。消防設備の維持管理や、設備の設置についての義務事項は、はっきりと消防法令条文に記載されています。かつ、何度も行政指導を経て不利益処分に至っていることを考えると言い訳の機会を与える必要はありません。行政手続法ではこのような場合では、意見を述べる機会を与えなくて良いと言っています。
一方、消防法8条関連の、防火管理関係、消防計画関係、その他ソフト面に関する項目については、法令文はありますが、それほど具体的に書かれているわけではありません。このような場合は「弁明の機会」が与えられます。
基本的に聴聞は、許認可自体を取り消したり、役職等の身分を剥奪するときに行うものなので、消防法令でそのようなケースがあるとすれば「危険物施設の許可取消」や「危険物保安統括管理者解任命令」「防火対象物や防災管理対象物の特例認定取消」等が該当し聴聞手続きが取られることになるでしょう。
第13条2項3号(意見陳述の機会が不要な例)
施設若しくは設備の設置、維持若しくは管理又は物の製造、販売その他の取扱いについて遵守すべき事項が法令において技術的な基準をもって明確にされている場合において、専ら当該基準が充足されていないことを理由として当該基準に従うべきことを命ずる不利益処分であってその不充足の事実が計測、実験その他客観的な認定方法によって確認されたものをしようとするとき。
行政手続法
まとめ
- 消防法令に違反すると物件を公表されることがある
- 公表は行政処分より容易に行える
- 公表されるキッカケは「法定点検」「消防査察」「内装工事」
- 公表は行政処分ではないので差止、取消ができない
- 行政処分には罰則がある
- 速やかに改善、改修することをおすすめいたします