消防法令が改正された場合に消防設備の改修工事が必要か否か【消防設備の遡及(そきゅう)にいて】

消防法令が改正された場合に消防設備の改修工事が必要か否か【消防設備の遡及(そきゅう)にいて】

消防法令が改正された場合に消防設備の改修工事について

消防設備の技術基準や設置基準は、時代の経過によりアップデートされていきます。また、現実の火災被害やメンテナンス時の事故についても法改正のポイントになります。法律のアップデートにより消防設備の設置基準が強化、維持されることは人々の生命と財産を守るうえで非常に重要となります。

しかし、法律の改正により消防設備を新規に追加したり、改修する場合にはそれなりのコストがかかります。ビルオーナーにとっては想定外の費用が発生することになり経済的な影響が出ることになります。そのため、原則論としては既存の建物には改正後の基準を適用することなく運用することになっています。

原則、改正後の基準は適用されない ※例外あり

原則論としては既存の建物には新法令が適応されないことになっています。ただし例外があります。例外については「消防法第17条の2の5」「消防法施行令第34条」に記載されています。この例外に該当する場合は新基準に基づき消防設備を設置する必要があります。

防火対象物にかかる例外
・法令改正前の基準において違反していた場合
・工事の着手が基準の改正後でかつ、増改築部分の床面積の合計が1,000㎡以上
・工事の着手が基準の改正後でかつ、延べ面積の1/2以上
特定防火対象物
・用途が変更になった場合

これらに当てはまる場合は改正後の基準により消防設備を設置しなければなりません。特定防火対象物とは不特定多数の人を収容できる施設を指します。例えば「劇場」「カラオケ」「飲食店」「物販店舗」「ホテル」「病院」などの施設です。

これらの用途では建物について詳しくない人々を収容するため共同住宅やいつも働くオフィスと比較して危険度が上がります。このようなことを考慮して法令改正時には消防設備もアップデートしてくださいということになっています。

また、使用する建物の用途を変更する場合にも注意が必要です。例えば日頃使用しているオフィスビル(建物すべてがオフィス)に飲食店が入ったとします。飲食店は特定用途のため法令改正の新基準に適合させる必要があります。

もし入居する用途が飲食店(特定用途)ではなくコピーセンターのようなオフィスを支援する施設や美容室、リラクゼーション、フィットネスジムなどの使用する人がある程度決まっている用途(非特定用途)に変更される場合は新法令が適用されないので新規に消防設備を設置する必要はなくなります。

次に消防設備に関する例外を見ていきます。

消防設備の種類による例外
・簡易消火器
・不活性消火設備(※全域放出方式の二酸化炭素消火設備)
・自動火災報知設備(※特定用途のみ
・ガス漏れ火災警報設備(※特定用途のみ)
・漏電火災警報器
・非常警報/非常放送設備
・誘導灯及/誘導標識
・必要とされる防火安全性能を有し消防庁長官が定めるもの

以上の消防設備について法令の改正があった場合は新基準が適用されることになり新たに消防設備を設置しなければなりません。

近年の法令改正

最近では二酸化炭素消火設備の事故が多発したことにり消防法施行令が改正され2023年4月に施行されました。

この改正により点検時の誤放射を妨げるために新たに点検時に使用する閉止弁の設置が義務化され、消火剤貯蔵室及び防護区画の出入り口に標識を設置することになりました。また、点検時に必要な図面資料や設備に関する操作マニュアルなどを備え付けることが追加されました。

この法改正により不活性ガス消火設備(全域放出方式の二酸化炭素消火設備)が設置されている防火対象物には法令改正による新基準が適用されることになり消防設備の改修工事が必要になります。

参考:総務省消防庁HP 二酸化炭素消火設備に係る安全対策

関係法令

第十七条の二の五 
第十七条第一項の消防用設備等の技術上の基準に関する政令若しくはこれに基づく命令又は同条第二項の規定に基づく条例の規定の施行又は適用の際、現に存する同条第一項の防火対象物における消防用設備等(消火器、避難器具その他政令で定めるものを除く。以下この条及び次条において同じ。)又は現に新築、増築、改築、移転、修繕若しくは模様替えの工事中の同条同項の防火対象物に係る消防用設備等がこれらの規定に適合しないときは、当該消防用設備等については、当該規定は、適用しない。この場合においては、当該消防用設備等の技術上の基準に関する従前の規定を適用する。

 前項の規定は、消防用設備等で次の各号のいずれかに該当するものについては、適用しない。

 第十七条第一項の消防用設備等の技術上の基準に関する政令若しくはこれに基づく命令又は同条第二項の規定に基づく条例を改正する法令による改正(当該政令若しくは命令又は条例を廃止すると同時に新たにこれに相当する政令若しくは命令又は条例を制定することを含む。)後の当該政令若しくは命令又は条例の規定の適用の際、当該規定に相当する従前の規定に適合していないことにより同条第一項の規定に違反している同条同項の防火対象物における消防用設備等

 工事の着手が第十七条第一項の消防用設備等の技術上の基準に関する政令若しくはこれに基づく命令又は同条第二項の規定に基づく条例の規定の施行又は適用の後である政令で定める増築、改築又は大規模の修繕若しくは模様替えに係る同条第一項の防火対象物における消防用設備等

 第十七条第一項の消防用設備等の技術上の基準に関する政令若しくはこれに基づく命令又は同条第二項の規定に基づく条例の規定に適合するに至つた同条第一項の防火対象物における消防用設備等

 前三号に掲げるもののほか、第十七条第一項の消防用設備等の技術上の基準に関する政令若しくはこれに基づく命令又は同条第二項の規定に基づく条例の規定の施行又は適用の際、現に存する百貨店、旅館、病院、地下街、複合用途防火対象物(政令で定めるものに限る。)その他同条第一項の防火対象物で多数の者が出入するものとして政令で定めるもの(以下「特定防火対象物」という。)における消防用設備等又は現に新築、増築、改築、移転、修繕若しくは模様替えの工事中の特定防火対象物に係る消防用設備等

e-GOV:消防法第17条の2の5

(適用が除外されない消防用設備等)
第三十四条 
法第十七条の二の五第一項の政令で定める消防用設備等は、次の各号に掲げる消防用設備等とする。

 簡易消火用具

 不活性ガス消火設備(全域放出方式のもので総務省令で定める不活性ガス消火剤を放射するものに限る。)(不活性ガス消火設備の設置及び維持に関する技術上の基準であつて総務省令で定めるものの適用を受ける部分に限る。)

 自動火災報知設備(別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十六)項イ及び(十六の二)項から(十七)項までに掲げる防火対象物に設けるものに限る。)

 ガス漏れ火災警報設備(別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十六)項イ、(十六の二)項及び(十六の三)項に掲げる防火対象物並びにこれらの防火対象物以外の防火対象物で第二十一条の二第一項第三号に掲げるものに設けるものに限る。)

 漏電火災警報器

 非常警報器具及び非常警報設備

 誘導灯及び誘導標識

 必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供する設備等であつて、消火器、避難器具及び前各号に掲げる消防用設備等に類するものとして消防庁長官が定めるもの

e-GOV:消防法施行令第34条

第十七条の三 
前条に規定する場合のほか、第十七条第一項の防火対象物の用途が変更されたことにより、当該用途が変更された後の当該防火対象物における消防用設備等がこれに係る同条同項の消防用設備等の技術上の基準に関する政令若しくはこれに基づく命令又は同条第二項の規定に基づく条例の規定に適合しないこととなるときは、当該消防用設備等については、当該規定は、適用しない。この場合においては、当該用途が変更される前の当該防火対象物における消防用設備等の技術上の基準に関する規定を適用する。

 前項の規定は、消防用設備等で次の各号の一に該当するものについては、適用しない。

 第十七条第一項の防火対象物の用途が変更された際、当該用途が変更される前の当該防火対象物における消防用設備等に係る同条同項の消防用設備等の技術上の基準に関する政令若しくはこれに基づく命令又は同条第二項の規定に基づく条例の規定に適合していないことにより同条第一項の規定に違反している当該防火対象物における消防用設備等

 工事の着手が第十七条第一項の防火対象物の用途の変更の後である政令で定める増築、改築又は大規模の修繕若しくは模様替えに係る当該防火対象物における消防用設備等

 第十七条第一項の消防用設備等の技術上の基準に関する政令若しくはこれに基づく命令又は同条第二項の規定に基づく条例の規定に適合するに至つた同条第一項の防火対象物における消防用設備等

 前三号に掲げるもののほか、第十七条第一項の防火対象物の用途が変更され、その変更後の用途が特定防火対象物の用途である

e-GOV:消防法第17条の3

(増築及び改築の範囲)
第三十四条の二 
法第十七条の二の五第二項第二号及び第十七条の三第二項第二号の政令で定める増築及び改築は、防火対象物の増築又は改築で、次の各号に掲げるものとする。

 工事の着手が基準時以後である増築又は改築に係る当該防火対象物の部分の床面積の合計が千平方メートル以上となることとなるもの

 前号に掲げるもののほか、工事の着手が基準時以後である増築又は改築に係る当該防火対象物の部分の床面積の合計が、基準時における当該防火対象物の延べ面積の二分の一以上となることとなるもの

 前項の基準時とは、法第十七条の二の五第一項前段又は法第十七条の三第一項前段の規定により第八条から第三十三条までの規定若しくはこれらに基づく総務省令又は法第十七条第二項の規定に基づく条例の規定の適用を受けない別表第一に掲げる防火対象物における消防用設備等について、それらの規定(それらの規定が改正された場合にあつては、改正前の規定を含むものとする。)が適用されない期間の始期をいう。

e-GOV消防法施行令第34条の2

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