飲食店に消防法令上必要な設備と届出を簡単に説明します【3項イ・3項ロ】

2022.04.07
スケルトンの工事前物件

工事画像

飲食店工事と消防設備

私管理人はかなりの数のテナント工事を行ってきました。その中でも飲食店の割合が多く様々経験をさせていただきました。今回はその経験を交え、飲食店舗に必要な消防について書いていきたいと思います。

飲食店開業に伴う内装工事はスケルトン、居抜きの2通りになります。スケルトンでも居抜きでも、今まで担当した物件で消防設備の工事だけ忘れさられるということが多くありました。そのような場合でも消防設備の設置工事は必要になるのですが、すべて内装が仕上がってからの作業となるので消防設備設置に必要な配線や機器類を壁や天井に埋め込むことができずに、せっかく作った内装が思っていたとおりにならないおそれがあります。

その他、仕上がった内装の中で工事をするので、作業中内装材や設置した什器に傷をつけてしまうということも起こり得ます。そのようにならないためにも、店舗工事が決まったら早めに消防設備についても対応する必要があります。

比較的大きな物件では、いつもビルに出入りしている指定消防設備業者工事を担当したりします。工事のたびに外の会社工事をするとビルの中がゴチャゴチャになることを避けるためです。小規模、中規模の場合はそのような指定業者がいないこともあり、テナント側が消防設備業者に依頼し工事を行うことになります。

指定業者がいる場合は後に問題が発生する確率は低いですが、そうでない場合はしっかりと管轄消防署、ビル関係者、内装業者、設備業者と打ち合わせを行い施工することが重要です。

飲食店の消防設備設置基準

飲食店の種類
飲食店は消防法施行令別表第一の3項に該当します。3項には、3項イの「待合、料理店、料亭」と、3項ロの「飲食店」があります。一般的なよくある飲食店は3項ロに該当します。

飲食店は不特定多数の人が使用するため、消防法令では「特定用途」 に指定されています。特定用途になると消防法令でも比較的厳し目の規制がかけられることになります。例えば建物の延べ面積が300㎡ある建物であれば自動火災報知設備が義務になります。300㎡の建物は比較的小さいので、飲食店で使用する建物にはほぼ自動火災報知設備が設置されていることでしょう。

改装工事で間仕切りを作ったり、厨房を作ったり様々な工事を行うと同時に火災感知器の増設や移設、または種類の交換などを行う必要があります。工事後は消防署への届出も必要になります。

もしこれらの工事を行わないで開業したとしても消防法で消防設備点検が義務になっていますので、工事をしていないことが発覚し結局工事をすることになります。そのようなことにならないようあらかじめ計画をして施工することをおすすめいたします。

これから下は飲食店で設置が義務になる消防設備の基準を書いていきます。ご参考にしていただければ幸いです。

消火器 消防法施行令第10条

純水ベースの消火器

一般的な基準 延べ面積150㎡以上
地下・無窓階・3階以上の階 床面積50㎡以上
火を使用する設備や器具を設置 すべてに必要
少量危険物 指定数量の1/5以上で指定数量未満のもの
指定可燃物 指定可燃物の数量以上のもの

上記の規定のほか、火を使用する設備や器具を設けているものは、全ての飲食店に消火器設置が義務になります。150㎡未満で火を使用する設備や器具を設けていないもの又は、防火上有効な対策がとられているものは不要とされています。

屋内消火栓 消防法施行令第11条

消火栓移設

一般的な基準

一般的な基準 延べ面積700㎡以上
耐火 or 準耐火+内装制限 延べ面積1,400㎡以上
耐火構造+内装制限 延べ面積2,100㎡以上

地下・無窓階・4階以上

一般的な基準 床面積150㎡以上
耐火 or 準耐火+内装制限 床面積300㎡以上
耐火構造+内装制限 床面積450㎡以上

指定可燃物(可燃性液体類にかかわるものは除く)

指定可燃物の数量の750倍以上貯蔵し又は取り扱うもの

屋内消火栓は通常共用部に設置されていると思われます。テナント工事として入る場合で移設工事を伴うことがあります。そのような場合は事前に消防署と協議を行う必要があります。

スプリンクラー 消防法施行令第12条

スプリンクラー開放型ヘッド

地階を除く階数11階以上 すべて
11階以上の階 すべて
平屋以外の防火対象物 床面積6,000㎡以上
地下・無窓階 床面積1,000㎡以上
4階以上10階以下の階 床面積1,500㎡以上
指定可燃物(可燃性液体類に関わるものを除く) 指定数量の1,000倍以上を貯蔵、取扱

水噴霧消火設備 消防法施行令第13条

13条では水噴霧消火設備、泡消火設備、不活性ガス消火設備、ハロゲン化物消火設備、粉末消火設備についての設置基準が記載されています。

これらの消火設備は航空機格納庫や駐車場、ボイラー室など特殊な場所について基準となり、今回の飲食店とはあまり関係がないため除外します。

屋外消火栓・動力消防ポンプ 施行令19・20条

こちらも特に関係がないため除外します。

自動火災報知設備 消防法施行令第21条

煙試験機にかけてみる

一般的な基準延べ面積300㎡以上
特定一階段防火対象物すべて
地階又は無窓階床面積100㎡以上
 指定可燃物 指定数量の500倍以上貯蔵・取扱
 11階以上の階すべて 

火災感知器は基本的に間仕切りが立っているところ全てに設けます。トイレは自治体により異なります、が基本的に室は設置義務があるので未警戒とならないよう注意が必要です。

また、押し釦(発信機)は「歩行距離50mに1個」、ベルは「水平距離25mに1個」設置が義務付けられています。

ガス漏れ火災警報設備 消防法施行令第21条の3

ガズ漏れ画像

地下の床面積の合計が1,000㎡以上

漏電火災警報器

漏電火災警報器画像
漏電火災警報器の工事について
延べ面積による基準 300㎡以上
契約電流による基準 50アンペアを超える

漏電火災警報器は木造建屋で「ラスモルタル工法」により建築された場合で、上記の条件に接触する際に設置が義務になります。ラスモルタル以外の構造、例えば木サイディング、鉄骨造、RC造の場合は不要です。

消防機関へ通用する火災報知設備 令第23条

火災通報装置画像
延べ面積による基準 1,000㎡以上

消防機関へ通報する火災報知設備は「火災通報装置」と呼ばれていたりもします。この設備は設置免除事項があり、消防機関へ常時通報することができる電話を設置したときは設置しなくてもよいという規定があります。

非常警報設備 消防法施行令第24条

非常警報新旧画像

非常ベル・サイレン(一般) 全体の収容人数が50人以上
非常ベル・サイレン(地下・無窓階) 全体の収容人数が20人以上
非常放送設備 全体の収容人数が300人以上
非常放送設備 地下を除く階が11以上
又は、地下階が3以上

非常ベル・サイレンは、押し釦をした装置と、他の場所に設置された同様の装置とを連動起動せさ、ベル、サイレンが一斉に鳴動するといったものです。非常ベルや非常サイレンは比較的小規模物件に設置されます。

一方、非常放送設備はある程度の人数を収容できるような中、大型施設に設置され、放送設備により音声案内やサイレンを鳴らすことができるものです。

避難器具 消防法施行令第25条

緩降機を展開してみた

2階以上の階又は地階
※主要構造部が耐火構造である場合は3階以上から必要(要相談)
階の収容人数 50人以上
2階以上の階から避難階、地上に通ずる階段が2以上設けられていない階 階の収容人数 10人以上

誘導灯 消防法施行令第26条

避難口誘導灯

すべてに必要

※避難が容易と認められるもので総務省令で定めるものは免除できる場合がある

飲食店に関しましては全てに誘導灯の設置が必要になります。例外として総務省令で定めているものは免除できるという規定が設けられています。

例えば、居室の各部分から主要な避難口を容易に見通せ、かつ認識できる階で、避難口までの距離が「避難階:20m以下」「避難階以外の階:10メートル」であるものとされています。避難階は大抵の場合は1階になり、避難階以外の階は地下又は2階以上となることでしょう。無窓階は除く

その他の消防設備

ダクト消火

フード内消火装置

厨房 200㎡
最大消費熱量 350kwを超えるもの

飲食店店舗では厨房を設置します。厨房の規模が大きくなれば火災の危険が増大するためフード消火設備が設置されます。また、鉄道の高架下などでは任意で設置することがあります。

その他の消防設備

「消防用水」「排煙設備」「連結散水設備」「連結送水管」「非常コンセント設備」「無線通信補助設備」につきましてはテナント内部に設置することがレアな設備であり、このような設備は大規模物件になりA工事またはB工事で担当することが想定されます。そのためここでの記載は省略いたします。

※消防設備は条例、規則、行政指導などで設置方法が異なることがあるので、事前に管轄の消防署との協議が必須です。

飲食店に必要な届出

消防法令上飲食店舗を開業する際に必要になる届出があります。届出はお店を開店する前に届出る必要があり開店する際には消防署による立入検査を実施することになっています。※規模により省略されることがある

防火対象物使用開始届

「防火対象物使用開始届」は内装建築が消防法令に適合しているかどうかを確認するものです。使用開始届には内装仕上げ表、平面図、天伏図、展開図、その他図面資料、厨房配置図、厨房機器リスト、熱量計算書、厨房機器承認図を添付することになっています。これらの資料に表紙をつけて管轄消防署に届出ることになります。

東京消防長の場合は「防火対象物使用開始届」を提出する前(同時提出でもよい)に「防火対象物点検工事計画届」を工事開始前7日前までに届ける必要があります。工事計画届は火災予防により届出が必要な自治体とそうでない自治体があります。

火を使用する設備等の設置届

火を使用する設備等の合計熱量が120kwを超える場合に届出が必要になります。火を使用する設備には「炉、温風暖房機、厨房設備、ボイラー、乾燥設備、給湯設備、ヒートポンプ冷暖房機、火花を生ずる設備、放電加工機」です。

飲食店では厨房機器の合計熱量で計算します。例えばコンロ、フライヤー、グリルなどのガス機器やジャー、保温庫などの電熱機器を全て足して120kw以上あれば届出が必要になります。熱量の目安としては、有名な牛丼屋さん1店舗では120kwに届かず2店舗行けばオーバーするという感覚です。

添付する資料は使用開始届と重複するので基本的には表紙1枚を書いて届出ることになります。

防火管理者選任届

店舗には防火管理者を置かなくてはならないケースがあります。一概には言えませんが、一般的な建物の場合で建物全体の収容人員が30人以上である場合は選任が必要になります。

防火管理者選任には防火管理者の資格が必要になります。資格は甲種・乙種2種類があり、甲種は2日間、乙種は1日の講習で取得できます。消防署にて手続きが行えます。店舗で30人ではなく、建物で30人なのであっさり超えてしまうことが多いので早めに防火管理者資格を取得しておくことをお勧めいたします。

消防設備着工届・設置届

消防設備を設置する際に必要な届出です。これらの書類は基本的に工事をする消防設備業者が届出ます。消防設備は法令の基準通り設置する必要があります。

ご不明な点は無料相談を承っておりますのでご不明な点がございましたらお気軽にご連絡ください。

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参考:消防施行規則

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