図解!消防法上の無窓階定義

2019.12.06
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無窓階「むそうかい」は消防設備を設計するうえで無視できない非常に重要な要素です。無窓階は開口部の面積が基準よりも小さい場合の階をいい、該当すると火災時の救助や避難が困難になることが想定されます。

そのため無窓階に該当すると消防設備の設置基準がかなり厳しくなります。例えば消火器や屋内消火栓、自動火災報知設備の設置基準面積が大幅に下がります。

もし消防設備を設計する段階で無窓階を見抜けていなければ、後に追加工事が必要になることが想定されるため、業務を行う上で注意をしなければなりません。

今回はどのようなときに無窓階に該当するのかについて説明いたします。

無窓階の定義は11階以上と10階以下で違う

無窓階の定義は11階以上の階と10階以下では条件が異なります。無窓階の定義は消防法施行規則5条の5-1項「防火上有効な措置」に記載されているので条文内容を引用します。

十一階以上の階にあつては直径五十センチメートル以上の円が内接することができる開口部の面積の合計が当該階の床面積の三十分の一を超える階(以下「普通階」という。)以外の階、十階以下の階にあつては直径一メートル以上の円が内接することができる開口部又はその幅及び高さがそれぞれ七十五センチメートル以上及び一・二メートル以上の開口部を二以上有する普通階以外の階とする。
【消防法施行規則5条の5】

条文だと読みにくいので図を交えて説明していきます。

11階以上の場合

無窓階の定義、11階以上

11階以上の階では直径50cmの円が内接できる開口部を有効開口部とし、その開口部の合計を床面積で割ります。出た数値が、床面積の1/30を以下の場合を無窓階と定義しています。

有効開口部が基準に満たないと無窓階となり厳しい規制がかかることになります。

10階以下の場合

 

無窓階計算方法

10階以下の階は3種類の開口部を使用し算定していきます。

必ず必要な開口部(いずれかが2つ以上必要)

  • 直径1m以上の円が内接する開口部
  • 幅75㎝・高さ1.2m以上の開口部

その他の開口部

  • 直径50㎝以上の円が内接する開口部

上記3つの開口部で算定します。必ず必要になる開口部がどちらでも良いので2つ以上ないとその時点で無窓階と判定されます。

これら合算した開口部の合計を床面積で割ります。割って出た値が床面積の30分の1以下であれば無窓階となります。

開口部の構造

開口部の条件をクリアしたら次に開口部の構造について見ていきます。構造については消防施行規則5の5条-2項に記載されています。

 前項の開口部は、次の各号(十一階以上の階の開口部にあつては、第二号を除く。)に適合するものでなければならない。

 床面から開口部の下端までの高さは、一・二メートル以内であること。

 開口部は、道又は道に通ずる幅員一メートル以上の通路その他の空地に面したものであること。

 開口部は、格子その他の内部から容易に避難することを妨げる構造を有しないものであり、かつ、外部から開放し、又は容易に破壊することにより進入できるものであること。

 開口部は、開口のため常時良好な状態に維持されているものであること。

【消防法施工規則5条の5-2】

この条文は開口部の構造、状態について書いてあります。有効な開口部があっても開口部の構造的にアウトであればその時点で無窓階判定になります。3つの構造を図で説明します。

3つの構造

 

無窓階の定義、障害物

無窓階を免れるためにはこの条件3つの条件が満たし、開口のため常時良好な状態に維持されていることが必須になります。床から開口部まで高さがあったり、窓を開けても避難上の障害物がある場合は要件をクリアできず無窓階となります。

ガラスの構造

ガラスの厚み測定器具

ガラスの構造よっては開口部として認められるものとそうでないものがあります。開口部が頑丈で破壊できない構造なのに開口部として扱うのはおかしなことです。

基本的に建物の開口部にはガラスが設置されています。このガラスの厚みや、引違いやはめ殺し(FIX)の構造により開口部として認められたりそうでなかったりします。

ガラスの種類と窓の形状については細かく定められています。

開口部は、格子その他の内部から容易に避難することを妨げる構造を
有しないものであり、かつ、外部から開放し、又は容易に破壊する
ことにより進入できるものであること。
【消防法施工規則5条の5-2項3号】

ガラスの種類による無窓階の取り扱い【予防事務審査検査基準】

東京消防庁監修の予防事務審査基準を引用した表を記します。

足場の有無やガラスにフィルムが張っているかなどについて細かく分けられています。

◯ 開口部として認められる
△ 引違い窓の半分のみ開口部として認められる
✕ 開口部として認められない

ガラス開口部の種類と厚み 戸の種類 足場あり 足場なし
フィルム
なし 
足場なし
フィルム
足場なし
フィルム
普通板ガラス
フロート板ガラス
磨き板ガラス
型板ガラス
熱線吸収板ガラス
熱線反射ガラス

  8mm以下
(厚さが6ミリを超えるものは,ガラスの大きさが概ね2㎡以下かつガラスの天端の高さが,設置されている階の床から2m以下のものに
限る。)

引違い戸

 

FIX

 

 

 

 

鉄線入りガラス
網入りガラス

6.8mm以下

引違い戸

FIX

10mm以下

引違い戸

FIX

強化ガラス
耐熱板ガラス
5mm以下

引違い戸

FIX

合わせガラス フロート板ガラス6.0ミリ以下
+PVB(ポリビニルブチラー
ル)30mil(膜厚0.76㎜)以下+フロート板ガラス6.0ミリ以下

引違い戸

FIX

網入板ガラス6.8ミリ以下+PVB(ポリビニルブチラール)30mil(膜厚0.76㎜)以下+フロート板ガラス5.0ミリ以下

引違い戸

FIX

フロート板ガラス5.0ミリ以下
+PVB(ポリビニルブチラー
ル)60mil(膜厚1.52㎜)以下+フロート板ガラス5.0ミリ以下

引違い戸

FIX

網入板ガラス6.8ミリ以下+PVB(ポリビニルブチラール)60mil(膜厚1.52㎜)以下+フロ
ート板ガラス6.0ミリ以下

引違い戸

FIX

フロート板ガラス3.0ミリ以下
+PVB(ポリビニルブチラー
ル)60mil(膜厚1.52㎜)以下+型板ガラス4.0ミリ以下

引違い戸

FIX

フロート板ガラス6.0ミリ以下
+EVA(エチレン酢酸ビニル
共重合体)中間膜0.4mm以下+PETフィルム0.13㎜以下+EVA中間膜0.4mm以下+フロート板ガラス6.0ミリ以下

引違い戸

FIX

フロート板ガラス6.0ミリ以下
+EVA(エチレン酢酸ビニル
共重合体)中間膜0.8mm以下+フロート板ガラス6.0ミリ以下

引違い戸

FIX

網入板ガラス6.8ミリ以下+EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)中間膜0.4mm以下+PETフィルム0.13㎜以下+EVA中間膜0.4mm以下+フロート板ガラス5.0ミリ以下

引違い戸

FIX

網入板ガラス6.8ミリ以下+EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)中間膜0.8mm以下+フロート板ガラス5.0ミリ以下

引違い戸

FIX

倍強度ガラス

引違い戸

FIX

複層ガラス 構成するガラスごとに本表(網入板ガラス及び線入板ガラス(窓ガラス用フィルムを貼付したもの等を含む)は,厚さ6.8ミリ以下のものに限る。)により評価し,全体の判断を行う。

無窓階判定になるとどうなるか??

無窓階と判定されれば各種消防設備の設置基準面積が大幅に下がったり、誘導灯を追加で設置する義務が発生します。

また自動火災報知設備の感知器は煙感知器に限定されることになります。普通階であれば安価な熱感知器を使用できますが、煙感知器の場合は熱感知器の6倍ほど価格が高くなります。

無窓階は火災リスクが高くなるためその分を消防設備で強化して人命、財産を守るということになります。

あとがき

最近共同住宅の民泊や旅館業への用途変更が多く行われています。もしこの建物が無窓階として扱われているのであれば注意が必要になります。

共同住宅に自動火災報知設備の設置がある場合は通常熱感知器が使用されます。消防法施行規則を読み解くと共同住宅用途(5項ロ)に火災感知器を設置する場合は無窓階であっても熱感知器を使用することができます。

100%共同住宅(5項ロ)として建っている建物に民泊や旅館が入居すると、特定用途複合防火対象物(16項イ)になります。

単体共同住宅から複合用途に変わると、その階が無窓階であれば共同住宅部分にも煙感知器の交換が必要になります。

参考:自動火災報知設備の設置基準

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