福祉施設の用途変更で必要な 消防設備工事と設置義務を解説

2025.03.13

弊社ではこれまで福祉施設の 消防設備工事を数多く手掛けてきました。 用途変更に伴う設置義務化の相談は 年間を通じて多い案件のひとつです。

今回は「共同住宅の一部を就労支援施設(6項ハ)へ用途変更する際、新たに義務化された消防設備工事の全工程を解説します。」

就労支援施設は消防法令でいう「6項ハ」に該当します。6項は福祉関連施設でその中での詳細を「イ、ロ、ハ」という具合に分類していきます。

6項は消防法令の中で最も厳しい規制が適用されます。理由は福祉関連施設を利用する方は障害者、高齢者あるいは、体が思うように動かせなく自力による避難が困難になることが想定できるためです。

過去に起こった火災で知られているのが「長崎県大村市グループホーム火災」があります。この施設は平屋で延べ面積が279.1㎡と小規模の施設でしたが死者7名を出しました。この火災がきっかけで高齢者グループホームのスプリンクラー設置義務が1,000㎡以上から275㎡以上に引き下げられました。その他の福祉施設の火災で「群馬県渋川市老人ホーム火災」「札幌市グループホーム火災」があります。

福祉関連施設はその他の施設と比較して火災被害が大きくなることが想定できるため消防設備の設置基準が通常のものよりかなり厳しめに規制されています。消防設備設置基準以外に防火管理関連(防火管理者の選任)の規制も厳しめに設定されています。

その他の用途については別記事をご参照ください。

共同住宅から複合用途(16項イ)へ用途変更で発生する設置義務とは

既存の建物に設備を新規に入れるということは今までは必要がなかったということです。新規に消防設備が必要になる条件として「建物に入居する用途が規制が厳しい用途に変わった」「建物の面積が増えた」「収容人数が増えた」「地下または3階以上に不特定多数が出入りする用途が入った(特定一階段等防火対象物)」のどれかです。

今回のケースは延べ面積が400㎡弱ほどの共同住宅(5項ロ 非特定用途)の一部分に福祉施設が入居することになりました。共同住宅の自動火災報知設備の設置基準は500㎡以上のため既存の建物の状態では設置が必要ありません。今回新たに社会福祉施設が入居することにより「特定用途複合防火対象物(16項イ 特定用途複合)」に変化しました。複合用途の自動火災報知設備設置基準は300㎡以上のため今までは未設置でOKだった設備が義務化されることになります。

自動火災報知設備に加えて避難器具の設置も必要になりました。避難器具の設置基準は福祉施設の場合は20人以上(その階の人数)で必要になります。今までは共同住宅だったので30人(その階の人数)で良かったのですが福祉施設の入居となる場合は30人→20人と規制が厳しくなります。
※避難器具の設置は下の階に飲食がある場合などは更に厳しくなるので原則の規定で記載しております。

避難器具の設置基準は別記事で記載しております。

設置工事前の基礎設計と消防署打ち合わせ

消防設備は自分勝手に設置ができず必ず法令に則った手続きを経て行う必要があります。自動火災報知設備を設置する場合は「着工届」を工事に着手する10日前までに届け出を行う必要があります。この届け出の趣旨は我々のような設備業者が設計した内容について管轄消防署が法令に適合しているかを審査し、法令に適合しない設置工事を行った場合のやり直しにかかる時間、材料などの経済的コストを最小化する目的があります。

法令に適合していない場合は審査期間の10日の間に消防署から設計変更の連絡や、ココはこうしてほしい等の行政指導があります。また工事に着手する10日前とは「受信機や感知器を設置する日の10日前」であり「配線をする日」は含まれないため機器類の設置場所などについて熟知している業者は着工届を届け出る前に配線工事を行うことがあります。

更には消防設備は人命を守る性質上、未設置物件で設置が急がれる場合には消防署と相談の上10日を待たずに着工できることがあります。例えば、消防設備が急に故障してしまった時、消防設備を設置する命令が出ている時、違反物件としてHPに公表されているなどがあります。これらは直ちに設置する義務があるためです。

美観を損なわない施工:ALC壁や既存内装における「隠蔽配線」の工夫

今回依頼いただいた電気系設備は自動火災報知設備、誘導灯、非常灯の3種類です。非常灯は建築基準法に基づき設置します。  消防法ではなく建築基準法の管轄のため、  消防署への届出・検査は不要です。

先に着工届についての記載をしたとおり届出に記載した場所付近に配線を持っていきます。既存の物件に設備工事をしていくため実際に現場へ行ってみないとわからないことが多く、作業のほぼすべてが現場合わせで行っていきます。当然図面で設計した通りにはならないので完了後の届出「設置届」で内容を修正します。

弊社は隠蔽配線を売りにしているため可能な限り配線を埋め込んで施工していきます。壁や天井がコンクリート等で仕上がっている場合は埋め込むことは不可能なので保護モールなどの部材を活用し見栄えがすこしでもよくなるように工夫しながら施工します。

上画像の手前は隠蔽で配線し熱感知器(差動式スポット型)を設置しています。奥に見える総合盤(ベル、ランプ、発信器が収納している箱)の配線がALC壁のため埋め込めずMKダクトによる配線となりました。ALC壁に穴をあけたり掘ったりすることもできますが、壁で防火区画を形成していたり、建物自体が壁構造で建築されているものがあるので壁に何らかの加工をする場合は注意が必要になります。

非常灯の設置は建築基準法令に基づくことを節のはじめに記載しました。テーマは違いますが過去に非常灯に触れた記事を書いているのでよろしければご参照ください。

【避難器具】福祉施設における器具選定の制限と「溶接工法」による強度確保

避難器具の設置基準は原則的に階の収容人数で決まります。福祉施設の場合は20人以上で設置義務となります。※特定一階段等防火対象物を除く。

今回の物件では入居する階の収容人数が20人以上になるので避難器具の設置が確定しました。次に、使用する避難器具を選定していきます。避難器具は「避難ロープ」「吊り下げはしご」「避難ハッチ」「緩降機 かんこうき」「滑り台」「救助袋」「避難橋」などがあります。

避難ロープや吊り下げはしごは比較的安価で入手でき工事代金も他の避難器具よりは設置が容易です。この安価に設置できる避難器具には次の制限があります。

避難ロープ 2階まで
吊り下げはしご 3階まで

これらの避難器具は高い階では安全かつ安定的に避難することが見込めず低層階でのみ使用することが認められています。吊り下げはしごをイメージすると「ビル最上階から泥棒がヘリコプターで逃げるときに使うようなはしご」です。吊り下げはしごを3階のベランダや腰壁から避難階まで吊り下げ降りていきます。

福祉施設の場合は用途の性質上使用できるはしごに制限が加えられ通常より規制が厳しくなり、3階で吊り下げはしごが使用できません。滑り台、救助袋、緩降機、避難橋のどれかから選択する必要があります。この中で物件に合わせた器具を選択すると今回の場合は「緩降機」となりました。

緩降機は滑り台、救助袋、避難橋よりも設置が容易で費用がかかりません。また着用具という体に巻き付けて着用するリングがガッチリ体に食い込み降下していく避難器具のため安全に避難階に到達することができる設備です。

 

6階以上 滑り台・救助袋・避難橋
4  階
5  階
滑り台・救助袋・緩降機・避難橋
3  階 滑り台・救助袋・緩降機・避難橋
2  階

滑り台・避難はしご(吊り下げ)・救助袋・
緩降機・避難橋・避難用タラップ

1  階 不要
地  下 避難はしご・避難用タラップ

「設置」の先にある「安全」ALC壁への特殊施工

ALC構造の建物において避難器具の確実な固定は、避難器具に求められる「最大使用荷重」を考慮すると施工難易度があがります。ALCにアンカーを打って固定しても強度を確保できないため、建物の状況に応じて以下の工法を現場ごとに選定しています。

  • 鉄骨溶接工法(今回採用):建物の骨組みに直接固定する最も堅牢な方法
  • 挟み込み工法:壁の両面から鉄板で保持し、点ではなく面で支える方法
  • 床固定工法:コンクリート床の強度を直接利用する方法

今回の建物は鉄骨造でALC壁のため アンカーの打ち込みでは強度を確保できません。 そのため柱(鉄骨)の配置を確認した結果、 鉄骨柱溶接工法が最適と判断し実施しました。容易なアンカー施工による脱落リスクを排除し、専門業者として一切の妥協がない施工を完遂しました。

参考:消防法施行規則

この記事の監修・執筆者
株式会社タイムラン代表
株式会社タイムラン代表 / 消防設備士・電気工事士・行政書士
村串 大輔
2005年より消防設備業界に携わり、2011年に株式会社タイムランを設立。自ら現場に立ち、自動火災報知設備やスプリンクラー、避難器具など、電気系から消火系まであらゆる消防設備の施工を数多く手掛ける。
2023年4月にはタイムラン行政書士事務所を開設し、現場知識と法務の両面から防災をサポート。これまでに手掛けた消防関連の申請届出は3,000件以上。現場のことはお任せください。
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