海外の消防設備 インドネシア編

2019.11.25

インドネシアは、太平洋とインド洋の間に広がる世界最大の群島国家です。約2億8,400万人が暮らす人口大国で、300以上の民族が1万8,000もの島々に分散して生活しています。

面積は日本の5倍に及び、赤道をまたぐ広大な領土を持ちます。8世紀の仏教寺院ボロブドゥールから、現代の超高層ビル群まで、多様な建築物が時代の重層性を物語ります。

現在は首都をジャカルタから東カリマンタン州の新都市ヌサンタラへ移転する国家プロジェクトが進行中で、2045年の完成を目指しています。年5%前後の経済成長を維持し、日本との経済関係も深い、東南アジアの中核国家です。

インドネシアと日本は今後、新首都ヌサンタラの建設プロジェクトを中心に協力を深めます。日本企業は都市開発や物流施設などで約110億円の初期投資を決定し、長期的な関与が期待されます。

人材面では、日本の労働力不足に対応するため、インドネシアから5年間で25万人の受け入れを計画。また、電気自動車開発やデジタル技術分野での共同事業も進展します。

1958年の国交樹立から60年以上にわたる友好関係をベースに、インフラ整備、産業協力、技術移転など多方面で連携を強化していきます。日本への好感度が90%を超える親日国として、両国は互いに利益をもたらす持続的なパートナーシップを築いていくでしょう。

インドネシアの消防設備

インドネシアの消防設備

屋内消火栓

インドネシアの屋内消火栓

インドネシアの建築物における消防設備について、興味深い発見がありました。現地で確認した屋内消火栓のパーツ(発信機、ランプ)が日本を代表する消防設備メーカー「能美防災株式会社」製のものでした。日本製の高品質な消防設備がインドネシアでも採用されていることを示しています。

日本の消防設備業界は、能美防災、ニッタン、ホーチキ、パナソニックを主要メーカーとして、世界トップレベルの技術を誇ります。各メーカーは独自の設計・製造を行っているため、製品形状がそれぞれ異なり、消防設備の専門家であれば一目でメーカーを識別できます。

特筆すべきは、能美防災とニッタンがセコムグループに属している点です。セコムグループは世界展開を果たしており、セキュリティ事業ではアジア諸国、オセアニア、ヨーロッパの一部(イギリス、トルコ)で事業を展開しています。このグローバルネットワークを通じて、能美防災やニッタンの製品がインドネシアを含むこれらの地域で広く使用されていると考えられます。

インドネシアで見られた消火栓には、ピクトグラムによる使用説明が明確に表示されており、言語の壁を超えた分かりやすい設計となっています。これは日本の消防設備が持つ「安全性」と「使いやすさ」の両立という特徴をよく表しています。

自動火災報知設備 ※機器紹介は同一施設ではありません

煙感知器はアメリカ拠点のEDWARD社の製品が設置されていました。ESTと書いてあるのは「Edwards Systems Technology」の頭文字で1872年創業の老舗メーカです。日本で初めて火災報知器を製造したホーチキ社の創業が1918年なので、かなり歴史のある会社と言えます。同社は日本で言う火災受信機から各種音響装置、感知器そして非常放送設備を製造販売しており、世界中の代理店などの販売網経由でワールドワイドの展開をしています。

施設内に設置してあった火災受信機を撮影許可をいただき取らせていただきました。日本で言うP型2級の5回線用の火災受信機です。設置があった建物は地上3階建てで階段が1系統だったので、表示窓を見てみると各階1窓、階段区画で1窓で合計4回線を使っているようでした。

受信機のスイッチは黒いボタンがいくつか設置されています。日本の製品では音響停止と火災復旧の操作ボタンにはわかりやすく赤やオレンジの色がつけられていますが、設置されている火災受信機には色分けされておらず多少操作が難しく感じました。

腐食気味の地区音響ベルが設置されていました。こちらのメーカーを調べてみるとHong Chang Fire Brigade Materials Co., Ltd.(宏昌消防器材有限公司)と記載があり台湾の高雄にある企業ということがわかりました。このベルはDC24V、20mAで日本で使われているものと同様の仕様でアメリカ保険業者安全試験所が策定する製品安全規格であるUL認証を取得していると記載があります。UL認定品であれば国際的にも通用する安全の証明となります。このベルは腐食しているので交換が必要そうです。

非常放送

非常放送設備は日本のTOA株式会社の製品が設置されていました。TOA社は1934年創業の放送設備メーカーです。国内の非常放送シェアを50%持っており国内業界トップ企業です。

日本で初めて非常放送設備を開発した先駆者で、1975年初の海外拠点としてインドネシアに生産合弁会社を設立しています。そのためインドネシアではTOA製品が使用されている割合が非常に高いのではないでしょうか。

画像のスピーカーは若干重厚な仕上げに見えます。我々が普段使っている同社製品は画像にあるようなビスで固定することはありません。もう少しコンパクトで非常に施工がしやすい設計となっています。

標識類

インドネシアにきて気がついたのは防災関連の標識が非常に多く設置されていることです。特に津波に関する標識を目にすることが多くいたるところで確認できます。沿岸地域では高層建築物が少ないためココという避難場所があるわけではあるわけではありません。

また、バリ島には独特の建物高さ制限が設けられています。1974年バリ州政府がココナッツの木よりも高い建物を立ててはいけないというルールをを制定しました。このルールは観光地化に向けたビーチ沿いに建設するホテルへの規制で文化的景観や環境の保護のために設けられました。

実際に15メートルを超える建物(The Grand Bali Beachホテル)もありますが、規制前にたったものでこの建物がきっかけとなったようです。

緊急集合場所(ASSEMBLY POINT)の標識を発見しました。集合場所の標識はあらゆるところで確認できますが、誘導灯のように通電されているタイプのものは初めてお目にかかりました。夜間遠くからでも視認でき非常に目立つ場所に設置されていました。

一時的な集合場所をあらかじめ設定しておけば災害時の混乱を最小化することができます。また、安全管理業務が履行しやすく二次的な避難に移行しやすくなります。災害時、緊急時の人命救助システムの重要な構成要素となるためこの標識は非常に重要な役割を担っています。

津波の避難経路はより高いところへ、火災の避難経路は建物の屋外へ避難します。災害の種類により避難方法が異なるため、生き延びる確率を上げるのであればそれぞれ別々の避難訓練が必要になります。

インドネシアは数多くの島が存在しこれまでたくさんの津波被害を受けてきました。2004年に発生したスマトラ沖地震による津波が記憶にあることでしょう。前にも書きましたがバリ島は他の島と違ってココナッツよりも高い建物を立てることができません。

その高さは15mとされていますので、1階層3メートルとしても5階までの建物が上限となります。ビーチリゾートなどに行かれる方は道を歩きながらでもどこに逃げればよいのかをシミュレーションすることをおすすめいたします。

火災による避難は階段を使って下に逃げるため階段の入口にはこのようなピクトグラムが描かれています。反対に津波の避難は階段を使って上に向かうため火災の避難方向とは逆方向に避難してます。非常にわかりやすくユニークです。

消火設備関係

赤く塗装してあるスプリンクラー配管がよく目立っています。スプリンクラーヘッドの接続されている配管の太さは25Aで日本と同じ太さでした。その根本にある配管は80Aほどで、25Aと80Aの接続は溶接によるものでした。

日本でこのような施工方法を見ることはほとんどなく、80Aから65A、40A、32A、25Aと継手を多用し徐々に小さい径に絞っていきます。憶測ですが継手類は高いので直接溶接することでコストを抑えているものと推測できます。

日本の規則では配管の太さにより設置できるスプリンクラーヘッドが決められています。例えば25Aの配管にはヘッド2個までしか設置できません。こちらでは3個以上設置されている場所があったりするので同様の規制はないようです。この事によりあえて配管を段々と絞る必要がないものと考えました。

日本で言う連結送水管の送水口です。差し込み式の送水口から逆止弁を経由して地中に埋設しています。この先は建物内部の各場所まで配管が巡らせてあります。この設備は消防隊がポンプ車から伸ばしてきたホースをこの送水口に直結させ配管に圧力をかけて水を送り込みます。消火活動をする場所付近に設置してある放水口に接続したホースから水を出し消火活動を行うことができます。

建物内部までホースを引っ張る必要がないため非常に効率的な消火活動ができます。配管が劣化すると配管のつなぎ目が腐食し圧力が漏れてしまうことがあります。設備を見た感じそれなりに施工から時間は経過していますが問題なく使用できそうでした。

消防自動車

モリタ社の消防自動車

日本でおなじみのモリタ社製の消防車を発見しました。

インドネシアで稼働しているモリタ製の消防車両は、主として日本の自治体での耐用年数を満了した車両が、国際支援の枠組みを利用して譲渡されたものが中心となっています。

両国とも道路の左側を走行する交通システムを採用しているため、日本仕様の右ハンドル車両を改造することなくそのまま現地で使用できるという実用上のメリットがあります。加えて、日本国内では消防車両に対して厳しい安全規格と定期的な点検体制が整えられていたため、運用を終えた車両であっても機能面での劣化が少なく、現役同様の消火活動にに耐えうる状態が維持されています。

こうした高い耐久性と信頼性が、インドネシアの消防関係者から支持を得る要因となっているそうです。

あとがき

防災目線で旅をすると日本では気が付かない新しい発見がたくさんあります。特にインドネシアでは日本企業の努力により数多くの日本メーカー製品を確認できました。海外の製品に関して言えば中身を日本企業が作ってOEMとして販売している事実もあるのですが、普段我々が扱っている製品と同じ形のものを海外で目にするのは非常に誇らしいことです。

現地の消防署に伺いインドネシアの消防法令データを貰ってきたのですが全てインドネシア語で書かれているため解読にまだまだ時間がかかりそうです。あたたかくご対応いただきました消防関係者様へ御礼申し上げます。

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