加圧式消火器の破裂による人身事故は過去に何度も発生しています。こうした事故を受け、安全性の高い蓄圧式消火器が広く普及するようになりました。消火器は「いざというときに使うもの」という位置づけのため、普段はあまり注目されませんが、実はその構造の違いが安全性に大きく影響します。とくに加圧式は、操作した瞬間に内部の圧力が急激に上昇する仕組みのため、わずかな腐食でも破裂につながる危険があります。
今回は加圧式と蓄圧式の違いそして、腐食した消火器がなぜ危険なのかについて現場での経験も踏まえながら書いていきたいと思います。
大変危険な腐食消火器

このように底部が腐食している消火器は、非常に危険な状態です。今回発見した消火器は厨房の奥に設置されていたもので、長いあいだ手の届かない場所に置かれたままになっていたため、点検の過程でようやく見つけることができました。
新規の消防設備点検では、時折こうした“掘り出し物”のような消火器に出会うことがありますが、ここまで腐食が進んだものに遭遇するのは滅多にありません。幸い、近くには使用可能な消火器が設置されていたため、この腐食消火器が奥深くに隠れたままでいてくれたことに、ある意味ほっとしています。
蓄圧式と加圧式

蓄圧式消火器は、あらかじめ容器内部に消火薬剤と圧力が加えられているタイプの消火器です。
もし容器に小さな穴があれば徐々に圧力が抜けてしまい、圧力が不足した状態になると、レバーを握っても薬剤は全く放出されません。
そのため、外部から圧力状態を確認できるように圧力ゲージが取り付けられています。圧力ゲージは通常、0.7MPa~0.98MPaの範囲を示していれば正常であり、ゲージを見るだけで使用可能かどうか簡単に判断できます。
一方、加圧式消火器には圧力ゲージがありません。
これは、赤い容器の内部に「加圧用ボンベ」が入っている構造のためです。レバーを握ると、そのボンベが開封され、容器内が一気に加圧されます。この瞬間に1MPaを超える圧力がかかり、その力で薬剤がホースを通じて放出される仕組みになっています。
なぜ危険なのか

底が腐食している消火器の内圧が一気に上がったら、どうなるでしょうか。
腐食によって穴が開いていたり、底が抜けかかっている状態で加圧されれば、腐食部分は圧力に耐えられず吹き飛んでしまいます。状況によっては、消火器本体がロケットのように跳ね上がり、人に向かってアッパーカットのように直撃する危険すらあります。
実際に、このような事故はこれまでに何度も発生しています。そのため、腐食した消火器を見つけた場合は、すぐに撤去し、新しいものに交換することが欠かせません。
参考記事:消火器がまだ使用できるか?判定方法と交換時期について
さいごに
とりわけ加圧式の消火器が危険というわけではなく、腐食や老朽化が進んだ消火器そのものが危険です。どのタイプであっても、金属部分が弱っていれば圧力に耐えられず破裂するおそれがあります。見た目が少し古い程度でも内部の状態までは分からないため、古い消火器は早めに交換することを強くおすすめいたします。