何らかの事情で、これまで消防設備が設置されていなかったものの、実際には設置が必要であったというケースがまれにあります。
たとえば、
・法令改正により現行法で新たに設置が求められるようになった場合(いわゆる「遡及」)
・消防署による査察や使用開始検査で指摘を受けた場合
・消防設備点検で不良や未設置が発覚した場合
といった理由が多く見られます。
私たち消防設備業者の立場からすると、まず現行法に基づいてどのような基準が適用されるかを確認するのが基本です。しかし、実際の現場では過去に特例が認められていたり、当時の設計条件によって異なる扱いを受けている場合もあります。さらに、本来であれば是正されるべき箇所が、担当者の見落としなどによりそのまま法令不適合の状態で放置されてしまっているケースも、残念ながら存在します。
そのため、過去の申請書や検査記録などの資料を確認し、建物の経緯や背景を正確に把握したうえで、現行法に照らした最適な対応を検討することが重要です。
総合盤を増設してみた
今回は、消防署による査察で指摘を受けた事例です。建物内には天井が低い2階部分のような区画があり、これまでその場所には総合盤が設置されていませんでした。総合盤は、原則として各階ごとに設けることが法令で定められているため、今回は新たに増設工事を行うことになりました。
総合盤とは、自動火災報知設備のベル、発信機(押しボタン)、およびランプなどが一体となって収納されている装置を指します。この総合盤は、火災受信機(いわゆる「親機」)と接続されており、受信機1台に対して複数の総合盤(「子機」)を設置することができます。新たに総合盤を増設する場合は、既存の総合盤内部の配線に接続して連動させます。
配線には耐熱性のある電線を使用し、導線の太さは通常1.2ミリまたは0.9ミリが用いられます。今回は配線距離が約30メートルと比較的短かったため、0.9ミリの電線を採用しました。
設置可能な場所を選定
総合盤を設置する際には、いくつかの条件を満たす必要があります。その中でも最も注意すべきポイントは「高さ制限」です。
総合盤には、火災時に手動で信号を送る「発信機(押しボタン)」が組み込まれています。この発信機は、緊急時に誰でもすぐ操作できるようにするため、床面から80センチ以上1.5メートル以下の範囲に設置することが消防法令で定められています。この高さ基準は安全性と操作性の両面から設けられており、必ず遵守しなければならない重要なルールです。
また、高さ以外にも次のような設置基準があります。
・ランプは、通行の妨げにならず、かつ目立つ位置に設置すること。
・地区音響ベルは、どの場所からも水平距離25メートル以内で聞こえるように配置すること。
・押しボタン(発信機)は、歩行距離50メートル以内の範囲に設けること。
・押しボタンの設置高さは、床面から0.8メートル以上1.5メートル以下であること。
これらの基準を満たして初めて、総合盤は法令上適正に設置されたと判断されます。
参考:消防法施行令第24条(自動火災報知設備の基準に関する細目)
実際に取り付けてみる
メーカーが製造している一般的な総合盤は、上から順に「ランプ」「ベル」「押しボタン(発信機)」の順で取り付けられています。ところが、今回の現場では天井が低く、設置できる位置の上限がかなり制限されていました。そのため、メーカー出荷時の状態のままでは、押しボタンを床面から80センチ以上1.5メートル以下という法令で定められた範囲内に収めることができません。
このような場合は、総合盤に取り付けられている各パーツの配置を一部入れ替えることで対応します。押しボタンの位置を調整し、高さ制限の範囲に収まるように再構成することで、法令に適合した設置が可能になります。
通電後は試験して完成
なんとか法令どおりに設置を完了しました。配線は隠蔽配線で施工しています。施工後は、発報試験・ベル鳴動試験・通話試験などの各種動作確認を実施し、試験結果を確認したうえで設置届を提出します。

あとがき
今回は、すでに仕上がっている既存店舗の改修工事だったため、配線を埋め込む作業は非常に難易度が高く、手間のかかるものでした。これまで多くの現場を経験してきましたが、既設の電気コンセントカバーやボックスを外してみると、意外にもそこから新たな配線ルートを見つけられることがあります。
現場写真を見る限りでは、そこまで隠蔽配線にこだわらなくても良いようにも思えますが、それでも仕上がりの美しさを追求したいので引き続き隠蔽配線に挑戦していきます。